小児専門のオンコロジストが足りない
──小児がんの一番の課題は、何だとお考えですか。
鈴木 そうですね。一番の問題は、小児がんに対しての専門知識を持った医者がものすごく少ないことだと思います。近年、大人は2人に1人が「がん」になる時代だといわれ、以前より珍しい病気ではなくなってきていますが、子どもの、しかも脳腫瘍に関しては、発症頻度が少ないこともあって、治療経験のある医師の数が圧倒的に少ないんです。
また、大人の場合は、メディカル・オンコロジスト(腫瘍内科医)とよばれる化学療法のスペシャリストも増えてきていますが、小児専門のオンコロジストは、まだまだ数が足りず、さらに小児の脳腫瘍を専門にするニューロオンコロジストは数える程しかいません。ただでさえリスクを伴う化学療法を、大人より身体の小さな小児に行うには、絶対的に小児専用のオンコロジストが必要なのですが、そういう専門医のいる病院が全国にごく少数しかないのも問題です。
再発の不安や後遺症とどう向き合うか
──小児がんは治ったけれど、再発の不安や後遺症に苦しむ方も多いと聞いています。
鈴木 大人の場合は、よく「5年」が区切りだといわれますが、小児がんの治療は極端な言い方をすれば「終わり」というものがないと私は考えています。病気そのものは治っても、病気や治療のために心や身体が障害を受けて、時には重い障害と向き合いながら生きていかなければいけない場合もあるので、継続的なフォローアップは絶対に必要です。
──小児の場合、その後の人生の方が長いので、就学や就職など、さまざまな課題がありますよね。
鈴木 病気によっては、放射線治療の影響で通常学級への在籍が難しくなるケースもありますし、バギーや車イスが必要になる場合もあります。成長によって症状が現れる場合もあれば、成長によって症状が治まる場合もあり、本当にその子ごとに違うフォローが必要なので、支援は一生必要だと思っています。
──レモネードスタンドと、榮島四郎くんの『しろさんのレモネードやさん』の絵本は、「小児がん」患児や家族、医療従事者のみなさんにとって、どのような意味をもたらしたと思いますか?
鈴木 小児がん治療の目標は、病気を治すことと、後遺症に苦しむ子どもをなくすことです。まだまだ研究や新しい治療の開発が必要ですが、アメリカで始まったレモネードスタンドは、小児がんの治療・研究支援に大きく役立っていると思います。今回、榮島くんたちは「小児がんという病気を知ってほしい」と絵本を作りましたが、これから治療をするお子さんにとっては「同じ病気だったけど、治療が終わって、こんな絵本まで出している子がいる」というのは勇気がもらえると思う。すごくいいなと思いますね。
取材・構成=相澤洋美
写真=末永裕樹/文藝春秋
榮島四郎(えいしま・しろう)くん
小学5年生(11歳)。3歳の夏に小児がんの一種である小児脳腫瘍を発症、4歳の時に15時間に及ぶ摘出手術を行う。抗がん剤、放射線治療を経て、5歳で退院。現在は半年に一度の通院を続けながら元気に学校に通い、地元横浜を中心に、レモネードスタンドを時々開催している。本を読むのが好きという読書家。将来の目標は「300歳まで生きること」と、ご両親と同じ鍼灸師になること。
鈴木智成(すずき・ともなり)先生
榮島四郎くんの主治医。埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科准教授、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。脳脊髄腫瘍診療に精通する脳神経外科医と小児科医が、同一病棟で集学的治療を展開するなかで、中心的な役割を担っている。