日本人は「不倫叩き」でドーパミンが放出されやすい
中村 たしかに不倫をする人は、フリーライダーですね。家庭という共同体に貢献しないし。ただ、自分と直接関係ない芸能人の不倫まで猛烈にバッシングしたがる人が多いのはなぜなんでしょう?
中野 不倫バッシングをする人は、自分を「正義」だと規定することで、脳から報酬を得ています。詳しく言うと、不倫叩きをすることで、ドーパミンなどの脳内物質が放出されるのです。
また、やっかいなのは、共同体のフリーライダーを検出するためのモジュールとして、「妬み」の感情が使われていることです。不倫をする有名人は、「一夫一婦」という共同体のモラルを守らず、快楽を楽しんでいる……。つまり、「コストを払わずにおいしい思いをしている」ように見えてしまいます。それが大衆の妬みに火をつけ、フリーライダーとして認識されてしまうのです。
妬みの感情を高めるのはオキシトシンという脳内物質なのですが、一方でオキシトシンは近しい人との愛着感情を強め、社会の結束を高める働きがあります。
日本人は結束の強い社会を構築してきてオキシトシンへの感受性が強いと推測されているので、ますますフリーライダーのバッシングに熱心になりやすいのです。
頻発する大災害がオキシトシンを増やしている?
中村 昔は著名人の色事は「エンタメ」でしたが、最近はバッシングすることがエンタメになっているような気がします。不倫タレントを起用しているテレビ局に抗議電話をかけたりすることで、憂さを晴らしているような……。
中野 バッシングしたり抗議の電話をかけたりするのって、それなりにコスト(労力)が必要ですよね。でも、不倫バッシングをする人にとっては、そのコストを支払ってでも、バッシングによる快感を得たいわけです。
とりわけここ十年来、大規模な災害が相次いだことで日本社会は結束を強めており、私たちはオキシトシンの影響下にあると思われます。集団がそうした状態にあるときに利己的な振る舞いをしている人がいると、いつも以上に叩かれやすくなる。その格好の対象が、不倫だったのだろうと思います。
なお、社会のルールを守る誠実で善良な人ほど、フリーライダーのバッシングに熱心になる傾向があることが、複数の科学論文で報告されています。
中村 それはとても納得できます。ただ、ルール遵守を声高に言う人が増えると、逆に息苦しい共同体になってしまう懸念がありますね。