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“不倫叩き”はなぜ快感なのか? 脳科学者が解き明かす、芸能界の不思議

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「不倫=悪」は歴史の浅い倫理にすぎない

中野 一夫一婦制が定着したのは、農耕が始まって規模の大きい集団生活を営むようになってからだというのが有力な説です。集団の規模が大きくなっても乱婚を続けていると性病が蔓延して共同体が存続しにくくなったため、一夫一婦制が定着したとの学説もあります。

 

 一夫多妻は今でもイスラム圏では認められていますし、発展途上国には乱婚が残っている社会も多く見られます。人類の婚姻形態は環境条件に左右されます。一夫多妻も一夫一婦も、ある地域に生きる集団にとってそれが繁殖に最も適応的な婚姻形態だったからスタンダードになったにすぎません。

 いずれにせよ、私たちが「倫理的」だと思っていることは人類の長い歴史の中で見ればごく最近形成されたものであり、「不倫や乱婚=悪」といった考えも、一夫一婦制が定着したあとに「後付け」で広まったものだと考えられます。

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中村 こうした科学的背景を知ると、著名人の不倫で大騒ぎしたり、その人の全人格を否定したりするのは、何だかバカバカしいことに見えてきますね。

 一方、不倫が芸術作品の原動力になってきた面もあります。林芙美子、柳原白蓮、瀬戸内寂聴、檀一雄……不倫をエネルギーにしてきた作家は枚挙に暇がありません。

 

中野 海外をみても、不倫を芸術作品に昇華させた著名人は、ゲーテ、ハイドン、チャイコフスキー、ジョン・レノン、エリック・クラプトン……もう際限ないですね。

 私たちのなかに不倫遺伝子がいまも息づいている以上、不倫がなくなることはありません。一方で、不倫バッシングを「快感」とする機構が私たちの脳に存在する以上、不倫バッシングもなくなることはありません。

 不倫はいけないことだけど、不倫をしてしまう。他人のことはとやかく言えた義理ではないのに、自分のことは棚にあげて、不倫バッシングにいそしむ……。この絶対的自己矛盾のなかで人類が生きているからこそ、さまざまな物語が生まれるのでしょうね。

ふたたび「乱婚型」が有利な社会になる?

中村 ただ、最近の日本は、不倫バッシングが行き過ぎな気もします。恋愛したがらない若者が増えているのも、案外そこに理由のひとつがあるんじゃないか。

中野 日本は子育てにともなうコストが他国と比べて相当に高い社会ですから、このままでは人口が減るばかりでしょうね。人口が増えればすべてハッピーだというほど単純なものではありませんが、婚外子を積極的に認める政策は検討に値するかもしれません。

中村 現にフランスでは2012年に生まれた子どもの約50%が婚外子で、1980年のデータ(約10%)に比べて5倍に増えていますね。

中野 もっとも、フランスの政策をそのまま日本に移植すればオッケーというほど単純な問題ではないと思いますが、子育てを社会全体で支援するような仕組みになれば、出生率は自然に上がるでしょうね。

 

中村 子育てのコストが減れば、「一夫一婦」を続けることにも意味がなくなるので、ふたたび人類社会は乱婚型が繁殖に有利になる、という考え方もできませんか?

中野 それは大いにあると思います。ただ、だからといって不倫を堂々と奨励されるのはゴメンですが(笑)。

写真=榎本麻美/文藝春秋

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