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今、女性アーティストだけの展示が持つ意味

 まず気づくのは、出品作家が全員女性であるということ。

笠原美智子さん ©鈴木七絵/文藝春秋

「これは意識的にそうしています。世にはたくさんの美術展が開かれていますけれど、女性アーティストだけの展示というのは日本では稀です。1980年代以降、現代アートの世界では女性がたいへん活躍しているというのに。

 逆に、男性作家だけの展示というのはたくさんある。そういうときに、『男性アーティストのみによる展示である』と言ったりはしませんよね。

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 日本は世界的に見てジェンダー意識がかなり低い国なのは事実です。すこしでも改善していくうえでも、このグループ展では女性作家のみにしています」

 今展ではどんな作品が観られると言えるのだろうか。           

「選んだ作家・作品には一見、共通点がないように思えますが、そうではありません。

 韓国のキム・オクソンは、自分の国際結婚における違和感を作品のテーマにしています。在日コリアンのキム・インスクは、朝鮮学校に通って大きくなり、長じてソウルで暮らすようになったら日本訛りがもとで差別された。そこで、文化の狭間にいる自分を表現の題材にした。

 台湾のホウ・ルル・シュウズが撮影地に選んだのは高雄の元兵士たちの町。国策によって(祖国を追われ)住み着いた人たちが苦心して築いた村は、時代が変わると国によって奪われることとなる。個人的なヒストリーが、現代の国や社会の矛盾とつながっています。

須藤絢乃〈幻影 Gespenster〉より 2013年 作家蔵 ©Ayano Sudo / 須藤絢乃 Courtesy of MEM, Tokyo

 写真美術館の女性学芸員が選出した日本の須藤絢乃は自分自身のアイデンティティに非常に自覚的です。中国のチェン・ズは自傷行為という自分自身の悩みや行為を作品化することで客観視していますし、シンガポールのジェラルディン・カンは、どうも関係がうまくいかない家族を説得して、ファミリーポートレートを撮っています。

 みな、自分にとって切実なことから発して作品をつくっているのです。そのほうが、観る側の想像力を導き出しやすいだろうと思います。いきなり『美とは?』『社会の不正義を糾す!』などと大上段に構えられるよりも、自分から出てきたテーマを扱っているほうが共感を呼びやすいでしょう。同じくらい反発も受けるかもしれませんが。いずれにせよ、人の心を揺り動かしやすいのはたしかです」

 なるほどそれで、いま生きている人の「ナマっぽい」感情が、それぞれの作品から、はっきりと読み取れるのだ。

 私的な小さいものごとを丹念にたどってこそ、普遍的な何かに至るもの。そんなしくみを実感できる展示だ。