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「中日ファン、西武ファンにありがとう」小川龍也がメキシコでした“引退という決断”

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/06/05
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メキシコで膨らんだ人生の可能性

 今はスマホさえあれば瞬時に英語から母国語に翻訳される時代だが、スペイン語となるとそこまでの精度はなかった。そんな環境で頑張ってコミュニケーションを取ろうとし、小川には感じることがたくさんあった。

「ホームステイ先の方は野球関係でつながりが多い人で、将来的にこういう人たちを誰かとつなげられる仕事ができたらいいなと思いました。まずは言葉を勉強して、いろんなところに行って、つながりを増やしていけたらいいなと思っています。メキシコでいろんな人と会って、話をして、引退する勇気ができたっていうか」

メキシコでお世話になった人たちとの楽しい時間 ©小川龍也

 30歳の海外挑戦は、わずか1試合に投げて3回3失点。まるで予期せぬ形で終焉を迎えた。

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 だがメキシコ北東部のモンテレイは、小川にとって人生に光明が差し込んだ場所になった。チームには元広島のラミロ・ペーニャや元ソフトバンクのダリエル・アルバレス、元巨人&日本ハムのクリスチャン・ビヤヌエバ、元中日のソイロ・アルモンテが在籍し、みんな仲良くしてくれた。中南米からソフトバンクに好素材を次々と送り込んでいる萩原健太スカウトがたまたま訪れ、想像だにしなかった世界を見せてくれた。

「住田さんの大親友らしくて、紹介していただいて話を聞きました。中南米を担当する日本人スカウトは萩原さんくらいしかいないらしいですね。自分の目の前のことを考えたらアレですけど、先のことを考えたらそういう仕事もいいんじゃないかなって」

 人と人をつなぐ仕事は世界にたくさんある。もしかして将来、小川が中南米からライオンズに優れた野球選手を送るようになるかもしれない。まだ漠然とした可能性の一つだが、今後、そういう人生を送りたいと小川は妻に伝えた。

「『やめるわ』みたいに言ったら、喜んで受け入れてくれました。僕のテンションがそれまでと全然違ったらしくて(笑)。すごくありがたく感じています。野球選手としてダメでやめるとかではなくて、次のためにやめると決めました」

 引退する勇気――。

 日本にいる頃にはなかったものを、メキシコで手に入れることができた。

西武でともにプレーした高木勇人(右)とメキシコで再会 ©小川龍也

最後に立つ大舞台

 今後は母親の故郷フィリピンに行き、まずは英語を勉強するつもりだ。来年は通信制の大学に入ることを決めている。

「僕は中日、西武と行って、日本でプレーした12年の間にフィリピン代表や台湾でのウインターリーグにも参加させていただきました。その中で一番感じたのは、人とのつながりの大事さですね」

 中日で8年、西武で4年、そしてメキシコで1カ月。野球人生で宝物の一つになったのが、西武への移籍だった。

「中日でくすぶっていて、もう終わりだろうなと思っていた人間が西武に移籍して開き直って投げられた結果、たまたまですけどうまくいって。優勝できたのはすごくかけがえのない思い出です。しかも2年連続優勝できたのは良かったですね」

 西武が2018年から果たした連覇には、多くの立役者がいた。誰一人欠けても成し遂げられなかった偉業で、試合終盤の勝負どころで左腕を振り続けた小川もその一人だ。

 充実したプロ野球人生に終止符を打つ今、最後に伝えたいことがある。

「中日ドラゴンズ、埼玉西武ライオンズで応援していただいた皆さん、ここで引退と決めましたが、12年間、応援をありがとうございました。僕は次の道に行き、陰ながらどこかで息をしていますので、ちょっとだけでも応援してください(笑)」

 新たなキャリアに踏み出す今年、小川には最後のマウンドが待っている。9月にアリゾナで開催されるワールド・ベースボール・クラシックの予選にフィリピン代表として参加する予定だ。

 小川は2012年にも同国代表として参加しているが、その縁をつないでくれたのが前述の住田だった。日本人で初めてドミニカ共和国のプロ球団で働いた経験を持つなど、世界の野球界にコネクションを持つ人物だ。人と人のつながりが、小川をさまざまな場所に誘った。

 母親の祖国を背負って立つ、最後の檜舞台。西武時代に何度も見せてくれたように、思い切り腕を振ってほしい。

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