高校時代に教科書で読んだ登攀記に感銘を受け、スイス・アイガー北壁の登攀に当時の史上最年少で成功したのは、21歳の時でした。
その道で当時は最先端を走っていた自負がありました。ただ、山仲間が滑落などで次々亡くなっていく。「極限の登山を続けたら、自分もいつか死ぬ」という思いが湧いてきました。
それでも山の道具に囲まれて仕事をしたい。そんな思いで、山仲間と創業したのがモンベルです。1975年8月、28歳でした。それから50年、グループ売上高が1500億円、従業員3000人の会社に成長しました。
なぜ、ここまで成長できたのか。自分たちが本当に欲しいものを作り続けてきた結果ですが、もう一つの理由は「山男は怖がり」だからではないかと思います。どうすれば潰れない会社になるか、考え抜いて経営してきたのです。

創業時から考えていたのは「社員の平均年齢を常に若くする」ということ。社員の年齢が上がると、給料は上がるのにパフォーマンスは下がる。そして会社の競争力も落ちる。雇用を守りながら、若い人を入れ続ける目的で組織を大きくしてきました。在庫回転率とか資金繰りとか、ロジックとは無縁の経営哲学です。潰れることを恐れ続けた結果、今があるのです。
ザ・ノース・フェイスを創業したダグ・トンプキンスも、パタゴニアを作ったイヴォン・シュイナードも、第一線で活躍した登山家という共通点があります。彼らとはアメリカのヨセミテ渓谷で一緒に川下りをしたこともある仲です。私たちが創業した60〜70年代は、アウトドアのルネッサンス期で、世界中でブランドが生まれました。
しかし、ダグは会社を譲渡した後、カヤックで遭難して亡くなりました。シュイナードも第一線を退いています。創業者として、いまも経営の現場に立っているのは私だけになりました。私が一番若いとはいえ、経営を続けられたのは、日本型経営をしているからでしょう。目先の売上や利益を出すことに汲々とせず、ビジネスをしてこられました。
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