岡留安則 愛嬌ある脅し

西岡 研介 ノンフィクションライター
ライフ 社会 読書

『噂の眞相』編集長として政治、経済から芸能、文壇までタブー無く報じた岡留安則(1947〜2019)。同誌でスクープを連発したノンフィクションライター・西岡研介氏の目に映った名物編集長とは。

 第一印象は「ホンマにいつもティアドロップのサングラス、かけてるんや」だった。

 大学時代に全共闘の一員として学生運動に明け暮れた経験から、1979年に『噂の眞相』を創刊。「反権力、反権威」を掲げ、政治・経済・芸能、どんな大物だろうと徹底的に追及する。そんな雑誌を立ち上げた“強面編集長”のため、「どれだけ怖いおっさんやねん」と思われがちだが、素顔は物腰が柔らかくてミーハー。連載には筒井康隆先生など有名作家を起用し、著名人のパーティーにも積極的に参加する。「そんな自分が好きなんでしょ」と茶々を入れれば、「これは仕事だ! 西岡君みたいな下品な関西人にはわかんないんだよ」と怒る岡留さんを、よく酒のつまみにしたものである。「反骨にして愛嬌あり」。編集者・岡留の魅力はここにある。

岡留安則 Ⓒ時事通信社

 権力や権威と戦うとなれば、「死なばもろとも」とばかりに体を張る。2000年、森喜朗総理(当時)の学生時代の買春検挙疑惑を報じた時が忘れられない。

 僕がこのネタを仕入れた時、過去に森総理の息子を散々叩いており「今さらオヤジのことを書いても」と乗り気ではなかった。しかし、岡留さんが前のめりだったため取材と情報の裏取りを重ねていくと、「これはいける」と意欲が出てきた。とはいえ、現職総理大臣のスキャンダルである。1%でも誤情報があれば、雑誌が潰れかねない。一抹の不安を岡留さんに伝えると、「信用してるから、思い切っていこう。責任は全部負うから」と、本人は狂喜乱舞したくらいだ。腹をくくってスクープを報じられたのは、泰然自若の編集長がいたからだった。

 真骨頂とも言えるのが、同年6月の右翼による「編集部襲撃事件」である。きっかけは、名物コーナー「一行情報」で、皇族に敬称を入れなかったことだった。侵入した右翼の男が編集部の台所から刃物を持ち出し騒然となり、岡留さんはデスクの椅子を持ち上げて応戦。止めに入った僕ら編集部員も加わった揉み合いの最中に太ももを切られた。

西岡研介氏 Ⓒ文藝春秋

 岡留さんらしさが全開となったのはこの後だ。まず、警察の事情聴取を「これから飲む約束があるから」と拒否。認められるはずもなく、取り調べを受けたが「トイレ」と言って抜け出し、「防犯カメラの襲撃映像を警察に押収される前にホームページで流せ」と、電話で編集部に指示を出したのだ。反面、警察から右翼の構成員への厳重処罰を求めるか? と質問されると、「求めます」。これには、僕と副編集長の川端幹人さんも「反権力謳ってる雑誌の編集長が被害者面って……やっぱ変わってるわ」と大笑いしてからかった。その日は当然、おとなしく家に帰るはずもなく、夜中からスタートした飲み会は、陣中見舞いに来てくれた記者たちと大宴会となった。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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