赤い猫

短歌

東 直子 歌人・小説家
エンタメ アート

 車掌さん、車掌さん、と呼んでみる ガスの炎や煮えたぎる湯を

 寿歌(ほぎうた)はひとりひとりの花野なり二両列車が遠くでひかる

 昆布だしの泡動きつつ消えゆきぬ勝ち気な人が落ち着いている

 赤い猫かわいがっていたよねとささやかれつつゆく隅田川

 地下室と屋根裏部屋を感情がつなげて安らかなる階段よ

 夜の街はさびしい花火 オルガンが奏でる祝意あびて戻った

 歯を磨くとちゅうでひどく眠くなる少し雀を好きになりそう

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source : 文藝春秋 2019年12月号

genre : エンタメ アート