累計発行部数が50万部を突破した「マチネの終わりに」(平野啓一郎著)が映画化された。
天才クラシックギタリストの蒔野聡史(福山雅治)と、国際ジャーナリストの小峰洋子(石田ゆり子)。ともに40代という、微妙で繊細な年齢に差し掛かった2人は出会った瞬間に惹かれあう。しかし、2人は運命に翻弄され、気持ちを抑えたまま別々の道を歩むことに。6年間でたった3度の邂逅の中で育んだ愛の行方は――。
映画は日本、パリ、ニューヨークでロケを敢行、美しい風景を舞台に物語は進んでいく。
愛し合うことの美しさを説得力を持って描く
平野 以前、瀬戸内寂聴さんの「源氏物語」を原作にした歌舞伎を、瀬戸内さんの隣で見たことがあるんです。市川海老蔵さん、当時の新之助さんの演技を見ながら、瀬戸内さんはボロボロ涙を流して泣いていました。自分が書いたもので泣くのは、作家の醍醐味だなと思っていたんですが、今回、思わず涙がこぼれてしまって、遂に僕もその境地かと(笑)……。
福山 試写会でお会いしたとき、平野さんが「まさか自分の映画で泣くとは思いませんでした」とおっしゃって、「やった!」と思いました。
平野 原作者なのに気恥ずかしいですが、とても美しい映画に仕上がっていて感動しました。
福山 キャスト、スタッフにとって最高の褒め言葉です。本当に嬉しいです。ちなみにどのシーンで?
平野 いろいろなエピソードの積み重ねで話が進展する映画なので、どのシーンでという感じではないんです。でも、やっぱり一番感動するのは、ニューヨークでのコンサートからのエンディングですね。映画も音楽と一緒で、ある種の時間芸術なので、音楽のサビのようにピークに向かって感情が高ぶっていく。気持ちのいい満足感がありました。
福山 原作を読んで、まず文章の美しさに惹かれました。こういう表現があるんだ、という発見の連続で。ともすると「言葉は美しいけれど、何も言えてなくない?」というような美文もあると思うんですが、平野さんの表現はすべて腑に落ちる。僕も歌詞を書く人間ですが、その表現力は舌を巻くばかりでした。
平野 ありがとうございます。
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source : 文藝春秋 2019年12月号