北村節子「ピッケルと口紅 地球あちこち登った笑った考えた」

本上 まなみ 俳優・エッセイスト
エンタメ 読書

柔軟さとユーモアあふれる、最高峰への冒険譚

 1975年5月。女性で世界初の最高峰エベレスト登頂を成功させた日本女子登山隊。

 登頂者は田部井淳子さん。そして15人のメンバーのひとりで、その後も田部井さんと数々の山行を共にしたのが著者、北村節子さんです。

北村節子『ピッケルと口紅 地球あちこち登った笑った考えた』(ヤマケイ文庫)1210円(税込)

 その2年前、73年初夏、山好き新米記者の「私」(北村さん)が見つけた小さな新聞記事は、7500メートル超のアンナプルナⅢ峰を制した日本女子隊にエベレスト登山の許可が下りた、というもの。勤めていた新聞社のデスクに掛け合い、彼女たちへの取材に赴くところから、冒険譚が始まります。

 取材初日、合宿ミーティングをしているメンバーたちの、ざっくばらんな様子を《眼の前でタタミの上に足を投げ出し、せんべいをかじりながら談笑するおねーさんたち》と綴る。彼女らのなかには妊婦さんや、2歳児の母という小柄な女性もいた。眼の前でメンバーを笑わせているこの小柄な女性こそがアンナプルナを制した田部井さん本人と知り、著者は彼女に俄然興味を持ちます。

 一方で田部井さんは当時を振り返り本書にこんな文章を寄せています。

《化粧気のない私たちの集まりに、目元パッチリ描いた美女登場である。当時流行のミニスカート、首元におしゃれに結んだスカーフがヒラヒラ風になびき、一瞬私は「コヤツ、ナニモノ」と思った》。取材に来たはずのこの記者が入隊志願するまではあっという間だったそう。好奇心の強さと物怖じせず考えを述べる著者に《どんな困難も彼女となら越えられる》と信頼を置く。

 当時は今より圧倒的に男性優位の社会で、女がエベレストを目指すなんて無茶だという声が少なくなかった。資金調達も困難を極めるなか、自らの力で資金を稼ぎ、鍛錬と知恵と工夫で、道を切り拓いていきます。

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source : 文藝春秋 2025年12月号

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