株主は企業を育てる資本家であれ!

石井 光太郎 MFA代表取締役
楠木 建 一橋大学特任教授

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株主にもいる「ピンとキリ」。建設的対話のためには「ピンの株主」が必要だ

 石井 「もの言う株主」や「アクティビスト」が世間の耳目を集めるようになって久しいですが、彼らの活動が果たして、本当に株主と企業の双方の利益に資するものになっているのか? 株主と企業との望ましい関係のあり方について、相変わらず手探り状態にあるように思います。

 楠木 企業が上場している以上、株主に向き合うことは当然の義務です。しかし、1990年代までの日本では、上場企業の資金調達の方法は銀行借入が主流で、銀行が大株主であることも多かった。また経営を安定させるために企業同士で株を持ち合うこともよく行われていたので、経営に口を出してくるのは、もっぱら債権者である銀行でした。銀行が大株主として株価を上げろ、とか配当をもっと増やせ、ということは少なかったので、「もの言う株主」が存在する余地はほとんどなかった。

 日本では、その構造が21世紀に入って変化し、資金調達の方法の主流が銀行から株式市場などに移ったことで、出資者である株主が経営にも口を出すという、考えてみれば資本主義のごく「普通の状態」になりました。

 石井 しかし、その口の出し方が、「建設的対話」のひと言で簡単に片づけられてしまっています。それは、どのような「対話」のことなのか? 肝になるべきその重要なポイントが、突っ込んで問われてこなかったというのが私の問題意識です。

楠木建氏(左)と石井光太郎氏がいま求められる株主を論じた Ⓒ文藝春秋

 楠木 石井さんは企業コンサルの仕事を通じて、その問題を誰よりも深く考えてこられた。2022年には、金融機関や機関投資家などの株主から委託を受け、「建設的対話」を仲立ちするMFAという会社を起業するなど、日本でも「建設的対話」を増やすために尽力されています。ですから、今日はなぜ、日本では株主と経営陣の「建設的対話」が希薄なのか? どうしたらそれが成り立つのか? を一緒に考えていきたいと思っています。

ピンとキリの分かれ目

 石井 楠木さんは、「建設的対話」があまり成り立っていないのはなぜだと考えていますか?

 楠木 そのためには一定の条件が満たされる必要があり、それが整っていないからではないかと考えています。私が「ピンキリフレームワーク」と呼んでいる図で説明します。

 

 タテ軸には「ボード」すなわち経営陣(取締役会)のピン―キリをとっています。ヨコ軸は「アクティビスト」のピン―キリです。最大のポイントは、いずれの軸も目先のパフォーマンスではなく、時間軸の取り方を問題にしているということです。

 ピンの経営陣は企業の長期的な利益や成長を念頭に置いた「企て」をもち、その実現を第一に考えています。

 一方、キリの経営陣には「企て」がなく、目先の業績や企業の存続だけを考えている。

「企て」とは、どのような商品やサービスを社会に提供し、利益を上げるかについての企図、構想であり、企業活動の中核をなし、社会における存在意義にもなっているものです。

 アクティビストのピンキリも企業の「企て」を最優先に考えているか否かで分けられます。

 ピンのアクティビストは、企業活動の中核にある「企て」が何であるのかを見極め、それを実現させるにはどうすればいいのかを考えて、企業に対して提言や要求をします。

 それに対して、キリのアクティビストは、目先の株価を上げて売り抜ける、あるいは企業からより多くの配当を引き出すことで、短期的な利益を上げることだけを考える。

 結論を先に言うと、株主と経営陣の建設的対話が成立するには、双方がピンであることが条件となります。

対話で鍛えられたソニー

 石井 この4種類の組み合わせの中で、いまの日本で一番多いのはどれですか?

 楠木 残念ながらキリ・キリですね。でも、社会全体のことを考えれば、僕は決して悪いことではないと考えています。キリのアクティビストが出してくるような次元の低い提言や要求をはね返せないような企業は上場廃止に追い込まれたり、経営陣が入れ替えられたりします。それは実現すべき「企て」を持たない企業が株式市場から退出する、あるいは「企て」を実現する力のない、キリの経営陣が企業からいなくなることを意味します。その新陳代謝や淘汰は、社会全体にはプラスに働くはずです。

最も多いのはどっちもどっちの「キリ・キリ」のパターン Ⓒ文藝春秋

 石井 なるほど。では、アクティビストがキリ、経営がピンだと、対話はどうなるでしょう?

 楠木 「建設的対話」にはなりませんが、ピンの経営陣がアクティビストの要求を押し返しながら、経営力をさらに磨くことができます。

 その好例が、2013年と2019年に起こった、サードポイント対ソニーの「対話」です。私見では、サードポイントは企業の「企て」ではなく、短期的な株価上昇で利益を上げようとするタイプのアクティビスト。彼らはピーク時にはソニー株の約7%を保有し、「エンターテインメント事業を分離しろ」「エレクトロニクス事業の収益性を見極めて製品の合理化を進め、画像センサーや半導体事業を売却しろ」とソニーに圧力をかけました。

 これに対し、当時執行役なり社長だった吉田憲一郎氏(現・会長)は、正面から要求に向き合い、是々非々で対応しました。サードポイントの要求を一部受け入れ、市場がエンタメ事業の業績を分析しやすいように情報開示を拡大したり、パソコン事業の売却など資本効率向上策を打ち出しました。一方で、戦略の主線である「エレクトロニクス事業とエンタメ事業の一体運営」は譲らず、長期的に利益を上げてきた半導体事業などの分離には応じなかった。それらの施策によって、ソニーの利益水準は回復して、企業価値も向上し、サードポイントは去っていきました。吉田氏は当時を振り返って、アクティビストとの対話で経営が鍛えられた、と言っています。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : ビジネス 企業 マネー