
〇企画趣旨
AIをはじめとしたデジタルテクノロジーの進化は、一般消費財メーカーにおける事業運営のあらゆる領域に変革をもたらしつつあります。製造現場では工程設計や品質管理の知的業務を効率化し、商品開発においては膨大なデータや顧客の声をもとに新たなアイデア創出や試作の高速化を可能にしています。さらに、流通・サプライチェーンにおける需給予測や異常対応の高度化、マーケティングにおけるコンテンツ生成・顧客理解の深化、カスタマーサービスにおける対話型サポートの高度化など、バリューチェーン全体にわたってAIは活用領域を広げています。
一方で、AI技術の導入・運用においては、情報の正確性、ブランドトーンの一貫性、知財や倫理面の配慮、現場との融合、そして人材育成・組織文化との整合といった多くの課題も顕在化しており、企業の持続的な成長には“単なるツールの導入”ではなく、“人とAIの共創による変革”が求められています。
本カンファレンスでは、一般消費財業界を取り巻く環境変化と「DXおよびAI」の最新活用動向を踏まえ、製造・開発・流通・マーケティング・顧客体験の各領域における事例や先進的な取り組みを共有するとともに、技術導入の実務的なポイントや課題、今後の展望について多角的に考察をします。DX、AI を“業務支援の手段”にとどめず、“新たな顧客価値を創出する戦略的資産”として位置づけるために、今企業が何に取り組むべきかを探る機会となれば幸いです。
■基調講演
生成 AI/AI エージェントが消費財ビジネスにもたらすインパクト
~ AIを部下にして成果を出す、あなたの“上司力“が問われる時代へ ~

株式会社THE GUILD 代表取締役
インタラクション・デザイナー
深津 貴之氏
サービスデザイナー。大学で都市情報デザインを学んだ後、英国にて2年間プロダクトデザインを学ぶ。(株)thaを経て、Flashコミュニティで活躍。2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、(株)Art&Mobile、クリエイティブファーム「THE GUILD」を設立。現在はnote(株)や弁護士ドットコム(株)のCXOを務めるほか、横須賀市のAI戦略アドバイザーなど、領域を超えた事業アドバイザリーを行う。執筆、講演などでも精力的に活動。
AI関連の情報更新の速さそして深沢氏の最近の仕事の進め方に沿って、講演はスライドレス、質疑応答形式にて進められた。以下はその抄録。
「どう問いをたてているのか?について。生成AI・言語モデルは、手前にある文章を受け取って最適な続きの文章を書く、というロジックで動く。手前の文章が充実している、詳細な情報が含まれていれば含まれているほど好都合だ。要件、欲しいもの、文脈の資料などが入っていれば入っているほど回答の品質は向上する。漠然とした、情報の少ない問いの回答は質も精度も落ちる」
「よって、入力する資料の量と質が最も大切。特に質が重要だ。例えば『これらの資料の重要な部分を使って、堅実・確実な定番的企画を立てるときの“プロセス”を考えて』とプロセス考案からやってもらえば、細かな問い立ては省けて効率化できる場合もある。顧客情報や取りたい市場の情報だけを入れるのではなく、例えば競合他社や自社の“IR情報”を入れるのも一つの手法だ。あとは、キャッチボール、やりとりを複数回こなしていく」
「時には、『自分は最適な資料や情報を用意できていない可能性がある。どのような資料を用意すればよいか?』と問い立てしてAI側から具体的資料を要求させ、人間側がそれを集める、といった“AI駆動型”を取ると良い。AIに意見を聞きながら人間が動くという進め方で、適切な問いを立てられないという苦手を克服し、成果の出る運用ができる場合もある」
「ボトルネックについて。ベイン・アンド・カンパニーのレポート=AI Survey: Four Themes Emerging | Bain & Companyによれば、『“生成AI導入”が自社グループのグローバル最重要課題5つのうちの一つに入っている』と回答した消費財業界の経営者の比率は37%。他業界が84%であるのに比べるとかなり低い※詳細は各自で元レポートを確認されたい。全自動DXや無限コンテンツ生産ができる金融業界などに比べ、さまざまな物理的制約のある消費財業界はAI投資がしにくいことは事実だ」
「消費財の場合、AIで効率化して商品企画や広告を100倍にしてもトラックなどで配送できる商品は100倍にはならない。そうしたボトルネック=伸び幅・物理の限界にどうチャレンジしていくのか、が課題になる。例えば希少性の高い土地など、AIでは即時に参入・入手できないものや分野を陣地にしつつ、そこ以外のボトルネックになる物理的な部分をどんどん削って効率化していくことが重要だ」
「今後のマーケティング、価値訴求について。生成AIの性能が上がるにつれて“ググる”=検索する機会やウェブサイトを訪問する機会が減り、Chat GPTやGeminiに聞いて教えてもらう、探してもらう機会が増えている。近い将来、AIエージェントに『毎月○日に品質が高く安価なトイレットペーパーを探して発送してもらって!』と依頼するような、商品の選択・選考が人間の手から離れてしまう時代も来るだろう。広告を打っても人間はそれを見ない……よってAIに訴求するための広告、ウェブサイトを考えなければならない時代が来る」
「例えば人間がある商品の購入をAIに依頼しても、AI側が“健康に悪いからこちらにしなさい”と言う時代が来るかもしれない。中長期で顧客・消費者の人生や体験を良くする、健康に寄与するといったエビデンスがあり、AIに対しても説得力を持つ商品でないとAIに推薦してもらえなくなる……そういう時代の到来に備え企業はどう準備をするか、考えたい」
「情報収集、ディープリサーチについて。AIの進化は非常に速く、情報を細かく収集し利用しやすい多様な形態にまとめる機能も多々登場している。しかし、情報量の圧倒的な増加により、すべてを追って捉えることはそのジャンルのプロ=研究者などでもほぼ不可能になっている。どう集めるかより、どの部分を捨てるか、集めないかの割り切りが重要になるだろう」
「投資対象にしても、GAFAなどのビッグテックが来年リリースするであろうテクノロジーやプロダクト機能への投資は避けるべきだ。ビッグテックが絶対に手がけない、統合SaaSにはならないところで、自社に与えるインパクトが大きい案件に絞ってしっかり投資すべき。AIが社内で巡回してアクセスできるデータベースの量を増やす、AIが調べられるようにAPI接続やドキュメントを整理しておく、組織改編・トレーニング・権限や評価制度整備……といった本質的なことを今やっておくべきだ」
「AIの選択について。AIの性能向上、進化の競争は激烈だ。今やっておくべきは、複数のAIを包括的に利用し、いつでもローコストで交換・代替できるような設計にしておくこと。AIによって企業のあらゆるものの回転速度が劇的に速くなっていく。流動性が高くなったときに企業の資産、組織体制、意思決定が直ちに追随できるように準備しておきたい。AIの種別で言えば、現在Google Workspaceをメインで使っているならGeminiを利用し、現状Microsoft AzureやTeams系で社内システムができているならGPT/Copilot系からスタートするということでよい」
「すでに、複数のLLMを順次使い稼働させて連鎖的に課題解決・仕事を進められるようになっている。短期的にはどうプロンプトを打つか、どう質問するかが重要だが、中長期的には人間は生成AIを“使わず”にAIが勝手に稼働していくようになる。自動的に動くAIがどうデータを取りやすくするか、AIがいかにプロジェクトを推進しやすくするか、その組織体制をどうつくっていくかが、ここ1~2年の我々にとって大切なことだ」
■課題解決講演
企業の“つくる力”を再設計
スピード・拡張性・一貫性を両立する仕組み

アドビ株式会社
営業戦略本部
シニアソリューションコンサルタント
名久井 舞子氏
細分化する市場ニーズ、増加する広告チャネル──企画・開発から販促まで、ビジュアル化の必要性は高まり続けています。 クリエイティブの現場においてトレードオフだった「スピード」と「クオリティ」。いま多くの企業が生成AIを業務実装することで両立させようとしています。すでに生成AIを業務に取り入れる企業の活用のステージは「導入」から「仕組み化」へと移り始めました。本セッションでは、最新のアドビの生成AI環境をご紹介するとともに、海外企業の実践事例を交え、単なる省力化にとどまらない“企業のつくる力”の強化と、組織のあり方そのものを進化させるためのアプローチをお届けします。
ブランドとクリエイティブはこれまで以上に需要になる。今後2年間のコンテンツ需要は5倍に、ブランドを重視する消費者は70%増に、高品質なクリエイティブによるマーケティングROIの向上は4.6倍になるという予測調査がある。
そんな環境下で消費財メーカーは、ターゲットやチャネルごとの特性に合わせた企画を実施し、国・地域間でのブランドデザインの一貫性を維持し、年間数万以上の素材制作をしなければならない。工数とコストはかさむ一方だ。例えば8つの製品の訴求のために、全世界で約50万のクリエイティブとコンテンツが必要となる場合もある。
業務量が増加すると、品質の低下や非効率なワークフローが生まれやすい。制作スピードとクオリティのトレードオフを解決するために生成AIへの期待が高まっている。マーケティング関連技術が最も生成AIの恩恵を受け、生成AIがパーソナライゼーションに寄与し、2026年には企業内の60%の組織で技術者なしでAIが活用されるとされる。
◎クリエイティブ環境/生成AI時代のアドビの役割
当社の“Firefly”は、企業での画像生成AI利用において優先的に採択されることが多い。データガバナンス/コンプライアンス/生成コンテンツ=セキュリティ・法務リスクへの配慮がなされているからだ。
具体的には、学習許可を得たコンテンツのみでトレーニング/学習素材を提供してくれたクリエイターへの報酬モデルの確立/ユーザーがインプットしたコンテンツからはトレーニングしない/ネット上の画像をマイニングしない、ことを実践・提唱している。
アドビでは次の3つのAI倫理原則に基づき「責任あるAI開発」を行っている。
・説明責任=慎重な評価と判断をもとにAIテクノロジーの設計と維持に取り組みます
・社会的責任=AIに関する懸念に対応し、是正処置を講じるプロセスとリソースを用意します
・透明性=お客様が当社のAIシステムについて的確に理解できるよう、オープンに説明します
これらに基づき、アドビはトレーニング、テスト、多様なメンバーで構成されたAI倫理審査会が監督するレビュープロセスなど、設計から開発、展開までを網羅する標準化されたプロセスを構築している。こうした基盤の上に画像、動画、3D、音声・音楽などの生成モデルが今後も構築されていく。
Fireflyでパッケージの背景を作成した例。玩具メーカーMATTEL社はバービー人形のパッケージを制作するにあたり、Adobe FireflyとCreative Cloudの活用で高品質のコンセプトを即座に生成し、承認の期間を短縮。サンプルコストを削減した(従来は複数案のスケッチを手作業で作成、レビューに時間をかけていた)。
インスピレーションを元にしたビジュアルアイデアの言語化は難しい。Fireflyの場合、プロンプト=テキスト入力に加えて、手持ちの画像を参照させることで画像生成ができる=構成参照/スタイル参照。同一の商品の統一されたビジュアルを量産したい場合などに非常に便利だ。
◎生成AIを拡張
“Firefly Custom Models”を利用すれば、製品開発の段階で次のレベルの自社らしい、自社ならではのアイデアを生み出すことができる。Custom Modelが基盤となり、独自のデザイン哲学をデータ化・資産化することが可能だ。

“Firefly Services”を活用すれば、各種コンテンツを迅速に作成/ローカライズ/コンテンツ大量生産によるパーソナライズ/タスクの効率化・既存ワークフローへの統合/ユーザー体験のユニーク化、が可能となる。もちろん当社の“photoshop”や“In Design”との融合、API連携、カスタマイズも大きな相乗効果を生む。
当社は昨年のBlack Fridayキャンペーンにおいて、約5万2000のバナー広告制作を行った。自社ブランドに特価した生成AIモデル構築/多言語コンテンツ作成の自動化/デジタルマーケティングツールとの連携による消費者行動データ整備、などができたことで、生産コスト63%削減、クリック数57%向上、ROI 140%が実現した。
※エスティローダーやアイデアスケッチ作成、コカ・コーラ(動画もあり)の事例紹介あり
ブランドの一貫性をグローバルに展開することに課題のあったコカ・コーラ。世界にさきがけAgentic AIを活用した当社の新しいデザイン作業システム“Project Fizzion=w/Firefly Services & Custom Models”を遂行することにより、複数パターンの自動生成/自社ブランドアセットを学習/Smart Resizingが効率よくできた。カスタマイズの幅が大幅に広がったのである。
◎実践のステップ
“仕組み化”への実践フレームワークは以下のスライド参照。(1)業務アイデア選定⇒(2)ワークフロー再設計⇒(3)社内実装/IT連携、と進捗させたい。

生成AIの進化は、クリエイティビティを加速する大きなチャンスである。スピード品質=生成AIで両立/ブランドの一貫性を維持/導入から仕組み化へ。生成AIツールだけでなく、仕組み全体を設計し人とAIの役割分担を明確にし、経営課題から逆算して効果測定を行いたい。
■特別講演(1)
ワコール、川上から川下までのAI・DX推進の舞台裏
~ 各ブランドの“想い”をすり合わせ、顧客起点で進めるデジタル変革 ~

株式会社ワコール
IT本部 IT企画開発部長
堀 清隆氏
2000年に(株)ワコール入社。情報システム部門にて「商品企画設計」「MD・生産管理」「販売管理・物流」「POS(店頭)」など事業の川上から川下までのシステム担当を歴任。主に業務改革やブランド事業の業務統合を伴うシステム構築プロジェクトに従事。2012年~15年 (株)ルシアンにて、業務改革プロジェクトを立ち上げ、リーダーとして推進。16年~23年 業界団体にてアパレル・ファッション業界でのRFID(ICタグ)の普及やAI活用の拡大を牽引。
弊社は研究開発⇒商品企画⇒MD⇒生産⇒物流/発送⇒店頭・お客様、という製造から小売までの全領域に真面目に取り組んでおり、組織もシステムもそれに対応している。本日はそれらのごく一部になってしまうが、製品設計システム/SCANBE(スキャンビー=3Dボディスキャナー)/DX・AI活用関連について主にお話ししたい。
まずは顧客起点DXの事例であるSCANBEから。自身のからだを見られることや、販売員による接客に抵抗があるお客様への選択肢の一つとして、セルフで簡単に計測ができる3D計測サービス「SCANBE」を開発し、新たな顧客体験の提供を目指した。※動画紹介あり
SCANBEでは、お客様はご自身の3D映像、インナーサイズ、全身20カ所の採寸データ、体型特徴がわかる(得られる)。お客様が一人ひとりのからだに合った商品選びにつなげられるのはもちろん、データをより一人ひとりにフィットする商品作りに活用することもできる。現在、「わたしに合うブラ診断」「わたしを知る骨格診断」「からだバランス診断」の3つのサービスも提供している(後者2つは有料)。
新サービスを活用(イノベーション部門、マーケティング戦略部門が担当)しながら、既存事業も進化させていく(販売部門、情報システム部門が担当)、という両利きの取り組みである。
次にものづくり分野、製品設計システムについて。2024年まで「モノづくりの在り方をプロセスから見直し、商品情報の一元管理を実現する」業務改革プロジェクトを実行した。弊社は複数のブランドを持つが、かつてはそれぞれが別の製品設計システムで設計・生産していた。それを一つに統合した。
出力帳票を減らし用語・基準を統一、他システムとの連携を取り、システム費用を低減した。入力した情報は接客やウェブサイトで活用⇒正確でより詳細な情報により商品の良さをお客様に伝えられる/不統一であった表示の統一化によるサイト改善⇒わかりやすくなることで、お客様が手にとりやすくなる/他ブランドの設計情報を活用(コピー&アレンジ、発想を拡げる)⇒社内情報資産を活かしてより良いモノづくり、効率的なモノづくり、という成果を得ることができた。

最後にAIの活用について。過去には売上予測に利用した(コロナ禍で中断、再開予定)。今後はソフトウェア開発に取り組みたいと考えている。
売上予測については、さまざまな実証実験の結果、データベース×AI・データ分析に、最新の店頭状況を加味する方法が有用と考える。「商品発売後の売上データ」もインプットとして再予測をし、週次で再予測し続ける(ローリング予測)のだ。売上データの取込→再予測→取込→再予測を続けると、実際の売上に近いデータが捉えられる。発売前の売上予測は精度が低く、ローリング予測=最新売上データの取込は必須ということが分かった。
ソフトウェア開発、プログラムコーディング(AIを使ってプログラム開発を効率化)については下記スライド参照。これは今後積極的に取り組みたいと考えている。

実際に“Copilot”を利用して一般社員に予約管理システムを作ってもらったところ、見栄えは悪いが10分程度でシステムができた。次のステップとして、プロのシステムエンジニア(SE)にプロンプト(AIへの指示文)を作ってもらい、ツールもプログラム開発用の“GitHub Copilot”を使ったところ、かなり見栄えと使い勝手の良い予約システムができた。
得た所感としては、
・完成形(完成させたいもの)をしっかり最初に規定し、生成AIにここまで実施させるという明確なイメージが大切。
・フロントの新規作成、業務ロジック込みのバックエンド処理・別言語へのコンバートなどケースによって準備するものは大きく変わってくるが、基本的には“トライアンドエラー”でブラッシュアップし100%へ近づける手順。
・基本的に下準備に時間をかければ、ある程度画一的に生成AIに任せる範囲規定内で100%に近づくことは可能だが、定義書・ルール・テンプレートなど下準備にかける時間とトレードオフとはなる。
AIを活用したソフトウェア開発(今日のところの)方針。
・SEの生産性向上を目指していく=システム初心者(ユーザー部門)でのシステム開発は目指さない
・オリジナルのシステム開発プラットフォームは当面作らない(後々は作りたい)
・コーディング、ドキュメント作成、テスト、マイグレーションなど、個別利用や部分利用は積極的に(ルール作り・プラットフォーム作りのための経験値をためていく)
■特別講演(2)
AI×DXで拓く花王の未来戦略
~ データと人財が創る“よきモノづくり” ~

花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター
デジタルイノベーション推進部長 博士(工学)
内山 徹也氏
2001年に研究開発職として入社後、基盤研究、ハウスホールド商品開発、ケミカル事業研究に従事。16年より農林水産省へ出向し、バイオマス循環資源課にてバイオ燃料関連政策を担当。省内の政策立案プロジェクト「チーム2050」に参画。18年に新設された先端技術戦略室に帰任後は、一貫して花王のDXを担当。全社規模のDX人財育成や生成AI活用を推進中。25年より現職。
We must change to remain the same.
「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」(映画『山猫 The Leopard』より)
弊社は、2027年に向けて、変革を加速させる「グローバル・シャープトップ」中期経営計画を遂行している。エッジの効いたソリューションで、世界の中で誰かの欠かせない一番になる。その実現に向けて「量と数」から「質と絆」のモノづくりへと変革するCHALLENGEである。
◎花王が考えるDX/花王デジタル戦略の全体像
花王はDXを、創造的破壊活動と定義している。新時代の競争ルールでの変革を加速するために、旧来のシステムや古い慣習、固定概念、成功体験を捨て去り、デジタル技術/AIを駆使して、再設計すること。それは運営体制・意思決定・モノづくり・顧客接点すべてにわたる。
ただし重要なのはデジタルそのものではなく変革でありdX>Dxである。トランスフォーメーションが重要で、デジタルは手段であり目的ではない。デジタルを手段とした“企業変革”では、最優先が課題=Problem、次がData、3番目がAIと位置づけている。

企業活動の本質は、商品開発(絶えざる革新・本質研究)⇒マーケティング(ライフバリュー提案)⇒価値設計(生活者・顧客を最もよく知る)というサイクルを超高速で繰り返す“よきモノづくり”にある。
マーケティングにより磨き上げたよきモノを受け取った生活者から、精確なよき声を受け取り、それを価値設計に反映する。経営側はスピーディーな経営アクションを取り、商品開発側は経営側に向けて成果やデータを見える化する。これら一連の企業活動を、デジタルで更に高速化していかなければならない。
※上記スライド内のInitiatives=「データドリブン経営の推進」「オペレーショナル・エクセレンスの推進」「顧客体験価値の向上」「グローバル最速展開」それぞれの詳説あり
◎花王のAI活用/DXについて
花王では用途や習熟度に応じたさまざまなAIツール群を準備している。AIビギナー向けには“KAO AI CHAT”を提供している。Microsoft Azure上でセキュアに運用を行っている。
一方で、デジタルツールはライセンスを配布するだけでは定着しない。そこで、全社員のスキル向上を目的に、2023年から全社プログラム「DXアドベンチャープログラム(DXAP)」を開始した。さらに2024年からは生成AI活用に特化した「Kao A.I. Academy」も開講している。
•基本コース(フレンドコース)修了者:10,266人
•実践コース(マスターコース)修了者:807人
(いずれも7月2日時点)
加えて、職種別に活用できるプロンプト集「プロンプトギャラリー」を公開し、「KAO AI CHAT」から利用できる仕組みも整備した。その結果、2025年7月時点で「KAO AI CHAT」の月間アクティブユーザーは約8,000人、1日約2,000人が継続的に利用する状態になっている。
AI推進側と現場では、見えている景色が異なる点も注意したい。DXにより業務が効率化される一方で、現場が日常業務で手一杯の状態では、新しい取り組みが“追加負荷”として受け止められ、抵抗が生じることもある。
そのため、DXAP開始にあたっては経営陣の強いコミットメントを得た。トップダウンで意思決定されたことで、業務時間の中でDXAPに取り組む時間を確保できている点は、非常に大きな要因と考えている。
生成AIは使うのは簡単だが、使いこなして大きな価値変化をもたらすには言語化力とコミュニケーション力が必須だ。使いこなせば仕事のやり方もおのずと変わっていく。つまり行動変化も大きくなる。まさに(dが小さくXが大きい)dXである。
日常の様々な業務を木を切る作業に例えよう。従来からの業務スタイルであるノコギリを使い続け、横に置いてあるチェーンソー:生成AIを含むデジタルツールを使ってもらえない社員も多い。行動変容が起こらない理由は、(1)存在に気づかない (2)使い方がわからない (3)ノコギリへの固執、であると考える。(1)~(3)を解消するために、前述のDXAPを含めた様々な施策を積極的に推進している。
花王の基本理念“THE KAO WAY”の中には「基本となる価値観」の項があり、正道を歩む/よきモノづくり/絶えざる革新、という三つのキーワードが記されている。講演の冒頭で「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」と話した。今、我々にとってデジタルは最も強力な変わるための手段である。
2025年7月30日(水) 会場対面/オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

