いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
2025年3月11日、東京・高田馬場の路上で動画のライブ配信をしていた女性(22)が、視聴者の男性(42)に刺殺されるという痛ましい事件が起きた。この「配信中の殺人事件」は、「推し活」の時代を象徴する出来事として社会に大きな衝撃を与えた。というのも、ここ数年、社会には「推し活」を「好きな存在を応援する前向きな文化」として歓迎するムードがあったからだ。
そもそも「誰かを応援する」行為は社会的に好感を持たれやすく、SNSでは「推しは生きる原動力」「推しがいるからがんばれる」といった言葉が日常的に飛び交っている。LINEヤフー株式会社が2023年に実施した調査によれば、「現在推しがいる」と回答した人は全体の59%にのぼり、とくに10~20代では8~9割が「推しを持つ」と回答している。すでに誰もが「推し」を持つ時代に入ったといえるだろう。しかし、「推し」のために金銭や時間を費やすことが当たり前になった一方で、今回のような事件をはじめ「推し活」をめぐるトラブルが目立つようになってきた。
「推し活」によって問題を抱えている当事者たちへ取材を重ねていくうちに、彼らの大半が、収入と貯蓄のほとんどを「推し活」に費やしている実態が見えてきた。クレジットカードを限度額まで使用して経済状態は火の車になりつつも、なお多額の金銭、そして時間を浪費することをやめられない。なぜ、このように歯止めが利かなくなってしまうのか。
推しを金で買う
たとえば「AKB48」のアイドルに3000万円以上を費やした男性は、選抜総選挙で「推し」の順位が上がり「やりきった甲斐がありました」と満足気に語った。あるいはビジュアル系アーティストのライブのたびに、すでに購入して持っているグッズを大量購入し続ける女性は、「物が欲しくて買っているわけではない。グッズが売れたという事実が『推し』に伝わることに意義がある」と笑顔で言ってのけた。
なお、矢野経済研究所が2023年に実施した「オタク」に関するアンケート調査によると、ひとりあたりの年間消費金額は44154円で、1週間の平均オタ活時間(オタク活動に費やす時間)は4.8時間。これに対して「推し活」の代名詞とも言える「アイドルオタク」の年間消費金額は81085円で平均オタ活時間は10.8時間と、いずれも他のジャンルの活動の平均を大きく上回る結果であった。
さらに、この状況を助長する社会的要因も存在する。グッズ販売や限定イベントの仕組みは人の購買心理を刺激するよう巧みに設計され、気軽にかつ連鎖的に「投資」を促すビジネスモデルが構築されつつある。こうした社会的環境は、「推しを応援したい」という個人の素朴な願いに寄り添うように見えながら、気づかぬうちにその投入を際限のないものへと変えていく作用を持つ。そうして本人が自覚しないまま浪費や依存のスパイラルに入り込んでしまう。
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