狂言・歌舞伎・文楽 三番叟の共演

巻頭随筆

吉田 玉男 人形浄瑠璃文楽・人形遣い
エンタメ 芸能

 天皇陛下の「即位礼正殿の儀」の翌10月23日。儀式に参列するため来日した外国の元首らを招いた内閣総理大臣夫妻主催晩餐会が開かれた。その席上、文化行事として「三番叟(さんばそう)」が披露され、狂言師の野村萬斎さん、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんと出演させていただいた。

 今回の三番叟は、文化行事の総合アドバイザーでもあった野村萬斎さんの発案により、異なる3つの伝統芸能が同じ演目を同時に演じるという、おそらく歴史的にも初めての特別な試みだった。

 三番叟は、能・狂言が草創期から大切に伝承してきた「翁」という神事芸能において、狂言師が勤めてきた演目だ。大地を踏みしめて地霊を鎮める表現や、鈴を振って種を蒔く所作によって国土安穏と五穀豊穣を寿ぐ。天皇の即位を祝福するのに、これほどふさわしい演目はないだろう。

 三番叟は、後に様々な芸能でも盛んに演じられるようになった。歌舞伎はもちろんだが、人形浄瑠璃文楽においても、躍動感溢れる太棹の旋律と人形の動きが観客の心を沸き立たせる人気曲で、舞台で上演するだけでなく、関西では、様々な祝賀パーティーや結婚披露宴などで上演を求められる機会も多い。

 晩餐会当日の、萬斎さんによる解説によれば、「狂言の影響を受けながら、後発の芸能でも発展し、双方が共存しながら発展を遂げていった」。三番叟こそ、日本の伝統文化の多様性、重層性を体現しているのだそうだ。

 狂言には囃子の間があり、長唄、義太夫節それぞれにも音楽的特徴と個性があり、その伴奏に合わせて、狂言師、歌舞伎俳優、人形遣いは演じている。まさしく多様な芸態をもつ狂言・歌舞伎・文楽がひとつの舞台で同時に三番叟を演じるには、様々な演出上の工夫や調整が必要だった。私には、義太夫節の間合いが身体に染み付いているから、当初は狂言の囃子、長唄の旋律に合わせて人形を遣えるだろうか、狂言と歌舞伎は人間だけれど、こちらは人形と人形遣い、一緒に舞台に立った時に観客に違和感を与えないか、正直、不安もあった。

 しかし、何度か、萬斎さんを中心に共演者の皆さんと稽古を重ね、演出がまとまっていくうち、まず自分自身が、一緒に演じることに馴染んで行ったように思う。

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source : 文藝春秋 2020年1月号

genre : エンタメ 芸能