マングース根絶後の気がかり

阿部 愼太郎 奄美群島国立公園管理事務所前所長

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 鹿児島県の離島、奄美大島の「あかさき公園」に約30頭のフイリマングースが放たれたのは1979年のことだ。毒蛇のハブを駆除するためだったと言われている。だが、マングースが好んで食べたのは危険なハブではない。農作物や島の無害な在来動物だった。

阿部愼太郎氏 ©文藝春秋

「島のマングースが増えてしまい、畑が荒らされるので困る」と、その実態を農業を営む知り合いから聞かされ、88年に奄美大島のマングースの生態を手弁当で調べ始めた。当時の私は、東京の獣医大学を卒業した後、恩師の和(にぎ)秀雄先生からの誘いで、奄美大島の民間研究所に入所したばかりだった。89年には「奄美哺乳類研究会(通称・あほ研)」を作り、仲間とともに捕獲調査を進めた。調査を始めた頃は、手作業でマングースを安楽死させるので、辛い想いをしたものだ。「この一頭を殺すことで、他の命が救われる」と自問自答した日もあった。あほ研でアマミノクロウサギなどの固有種にマングースが影響を与えていることを報告すると、当時の環境庁や鹿児島県がマングースの現状把握に動き始めた。

名瀬市農林課職員の森田繁さんがかなり粘って撮影したマングース食害の証拠写真(写真提供:阿部愼太郎)

 その後、私は環境庁(当時)に転職し、2001年からマングース対策の仕事を始めた。05年には、専従職員による「奄美マングースバスターズ」を立ち上げ、3万個に及ぶ「T字型筒罠」の展開、マングース探索犬の導入など、マングース根絶に尽力してきた。

 T字型筒罠は、マングースを捕殺する一方、他の動物を極力混獲しないためにバスターズが改良を重ねた罠だ。マングースの他に、より小さな在来ネズミ類もエサに到達するが、筒の長さを変え、仕掛けの感度を調節し、ネズミ類が捕殺されにくい構造に改造した。以前に使っていた生け捕り式の「かご罠」は、混獲された動物は逃がせばよかったが、毎日点検しなくてはならなかった。

 そして18年に最後のマングースが捕獲され、24年9月、ついに環境省が奄美大島のマングース根絶を宣言するに至った。奄美大島の面積は約712平方キロメートル。東京都23区よりもひと回り大きい。これだけ広い島でマングースを根絶したのは、世界史上初めてだ。

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source : 文藝春秋 2026年5月号

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