納涼対談 うなぎを巡る深〜い話

金本 兼次郎 野田岩五代目店主
青山 潤 東京大学大気海洋研究所教授
ライフ サイエンス 歴史 グルメ

極上は、青い背に黄色の腹

 青山 今日は、鰻専門店の野田岩にお邪魔しています。外観だけでなく店内も格式高い雰囲気ですね。扉を開けて入って良いものか迷うほどでした(笑)。

 金本 内装には、飛騨高山の古民家で使われていた梁や柱を移築しました。壁に掛けた絵は、この雰囲気に合うものを京都で探したんですよ。

 青山 鰻を味わうための空間が見事に成立しています。

野田岩の蒲焼(野田岩提供)

 昔は蒲焼だけで食べていたと聞きますが、いつ頃からご飯と一緒に食べるようになったんでしょうか。

 金本 蒲焼はおもに裕福な人が食べるものだったと聞きますが、江戸時代以降に庶民にも親しまれるようになり、次第に「ご飯も欲しい」となったのでしょう。下町の人はご飯の上に鰻を乗せたどんぶりをバーッとかきこみ、山の手のお屋敷の人は、蒲焼だけをゆっくり端から食べていたようですね。

 青山 庶民の私としては、やっぱりどんぶりが好きです(笑)。野田岩さんは200年以上続く老舗ですが、蒸して柔らかくする調理法は、創業当時から変わらないんですか。

 金本 いえ、変わっていると思います。蒸して柔らかくする方法は後世にできたもので、鰻が庶民の口に入るようになった江戸時代は、まだ焼くだけの素朴なものだったと思いますね。

 寛政年間に創業し、200年もの間伝統の味を守りつづけてきた鰻専門店・野田岩。五代目店主である金本兼次郎氏は、その歴史を継承しながらも、パリに支店を構えたり、キャビアと組合せた料理を開発したりと、新しい可能性に挑戦してきた。

 東京大学大気海洋研究所の青山潤教授は、ウナギ研究の第一人者である塚本勝巳氏に師事し、ニホンウナギの産卵場所を特定したり新種を発見するなど、世界のウナギ研究に貢献。その調査の様子を綴ったエッセイ『アフリカにょろり旅』は、第23回講談社エッセイ賞を受賞している。

 日本人に愛されながらも、未だ謎の多いウナギ。その謎と魅力を語り合う。

 

《動画の下に記事本文が続きます》

 

 青山 野田岩さんではいつから「蒸し」が入ったのですか。

 金本 正確には分かりませんが、96歳の私が子供のときには既に蒸していました。おそらく明治の後半、食文化が発展した頃からでしょうか。「蒸し」は、実はかなり高度な技術なんです。蒸した鰻は“手”で持つのではなく、“腰”でリズムをとって持たないと、鰻を裏返す際に、柔らかいので串から崩れ落ちてしまうんですよ。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2024年9月号

genre : ライフ サイエンス 歴史 グルメ