シジュウカラのようにゾウやチンパンジーにも言葉があるのかもしれない

第85回

鈴木 俊貴 動物言語学者
ライフ サイエンス 教育

“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、動物言語学者の鈴木俊貴さんです。

 

■連載「有働由美子のマイフェアパーソン」

第79回 塩田武士(作家)

第80回 タサン志麻(家政婦)
第81回 上戸彩(俳優)
第82回 清武英利(ノンフィクション作家)
第83回 水野良樹(ソングライター)
第84回 清水ミチコ(タレント)

第85回 今回はこちら

 有働 鈴木先生の愛犬は「くーちゃん」というお名前だそうですね。うちの犬も同じ名前でして。

 鈴木 え、奇遇ですね!

 有働 ですよね。くーちゃんから生まれた「そら君」もいて、親子で同じ漢字なんです。

 鈴木 素敵ですね。犬種は何ですか?

 有働 トイプードルです。

 鈴木 半分は一緒だ。うちはマルプーといって、マルチーズとプードルのミックス犬です。トイプーって賢いですよね。人間の言っていることが何でもわかるくらい。

「ヘビ嫌い」が多いわけ

 有働 つい犬の話から入ってしまいましたが、鈴木先生の主な研究対象は鳥のシジュウカラ。この野鳥が言葉を話すことを世界で初めて突き止めた動物言語学者であり、現在は東京大学先端科学技術研究センター准教授です。2025年に出版してベストセラーとなった著書『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)は、いま何万部ですか?

鈴木氏(左)からは有働さんに双眼鏡の使い方アドバイスも Ⓒ文藝春秋

 鈴木 20万部を超えました。「書店員が選ぶノンフィクション大賞2025」にも選ばれて、すごく嬉しかったです。

 有働 実はこの本が発売されてすぐ、いろんな方から私の元に送られてきました。読んだら誰かに勧めたくなるからだと思います。

 鈴木 本当ですか。どうりで売れているわけだ(笑)。ありがたいです。

 有働 実際めちゃくちゃ面白かったです。鳥に興味がない人も、読むと近所を散歩する時でも五感が研ぎ澄まされるようになるので、今すぐ読んでほしい。話の流れにもワクワクして、先生の歩みを自分がたどったような読後感でした。

 今日は個人的に長年気になっている疑問からお聞きしたいのですが。

 鈴木 わかりました。

 有働 私は鹿児島の山奥で生まれ育ったにもかかわらず、虫と爬虫類がずっと苦手です。一方で、先生は小さい頃から虫などの生き物が好きだったそうですが、同じ子どもでもどうして差が生じるのでしょう?

 鈴木 ひょっとすると、生まれた段階で個性があるのかもしれません。鳥ではその研究が進んでいて、セキセイインコに新しいおもちゃをあげると、好奇心を持って飛びつくインコと、怖がってケージの端っこに逃げるインコがいるんです。遺伝的に違いがあることがわかっている。人間ではまだはっきりしていませんが、そうした生まれつきの違いが虫の好き嫌いにも関わっているのではないかと。

 有働 なんと! そうなのですか。

 鈴木 ただ、ヘビに関しては嫌いな人の方が圧倒的に多いだろうし、実は人間だけでなく、いろんな動物がそうです。サルもリスもヘビを嫌がる。これは、ヘビの中には毒ヘビがいるからです。噛まれれば死んでしまうから、ヘビに対して生まれつき特別な認識を持っている動物がたくさんいるんです。

 有働 生まれつき、恐れるべきものとして認識しているのですか?

正直、虫と爬虫類はずっと苦手な有働氏 Ⓒ文藝春秋

 鈴木 そうです。シジュウカラの場合は、ヘビを示す「ジャージャー」という鳴き声を持っていて、その声を聞くと、巣箱の中の雛まで巣箱を飛び出して逃げます。侵入されたら皆丸呑みにされるので、「ジャージャー」と聞いたら本能的に巣を脱出する。シジュウカラを食べるのはアオダイショウで毒はないのですが、それでも巣穴に侵入してくる特別な天敵なんですよ。

 有働 なるほど。

人間が生来知っているもの

 鈴木 人間にも、生まれつきヘビの認識があるかもしれないことを示唆する研究があります。赤ちゃんにいろんな生物の写真を見せていくと、初めて見たにもかかわらず、ヘビに対しては瞳孔が広がってストレスを感じるし、それを学習するのも早いんですよ。頭の中に何のテンプレートもなければ、どの写真も同じように認識するはずですよね?

 有働 はい。

 鈴木 ところが生まれつき頭の中で特定のものの形は知っているようで、一つがヘビで、もう一つは顔。

 有働 えっ、顔ですか?

 鈴木 僕ら人間は、顔の違いで個人を覚えるでしょう。さらに、表情を見て相手の気持ちを察するということをする。だから、生まれた時から顔に注意が行くようになっていて。たとえば、生まれたばかりの新生児に色々な図形を見せていくと、上に2点、その下に1点が並んだものに対しては、特別な反応をするんです。上が1点、下が2点だとそうはならない。大人でも顔にみえる図形ってたくさんありますよね。シミュラクラ現象といいますが、あれは生まれつきと考えられています。

 有働 ヘビへの警戒心が生まれつきであれば、多様な生物を触れない自分を反省しなくてもいいのかな。

 鈴木 そうそう。逆に僕は、生まれつき生き物全般が好きでした。この間実家でアルバムをめくったら、1歳5カ月の時、すでにベビーカーに虫捕り網が差さってて。父が作ってくれたんです……やっと話が戻ってきた(笑)。

 有働 戻ってきましたね(笑)。

 鈴木 でも鳥に関しては、虫や爬虫類と違って生活空間が違うし、危険な鳥もほとんどいないし、嫌いという人は少ない気がしますけどね。

 有働 そこは反論したい。最近うちのマンションの狭いベランダにカラスが来るようになって。「シッシッ」と言っても微動だにせず、洗濯物で煽ってようやく去る態度がふてぶてしくてかわいくないです。

 鈴木 ちょっと待って。カラスはすごくかわいいと思います。

 有働 えー、どこがですか?

 鈴木 賢いところです。クルミを車道に置いて車のタイヤで殻を割らせて食べるカラスもいます。あと、カラスは遊ぶんですよ。野生動物が遊ぶ姿ってあまり見ないじゃないですか。でもカラスは遊ぶ。有名な例だと、滑り台や雪の斜面を滑って遊ぶんです。

 有働 かわいいけど賢すぎて怖い。

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source : 文藝春秋 2026年2月号

genre : ライフ サイエンス 教育