“ないはず”のレコード

高氏 貴博 レコード収集家

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 ラジオ放送などを録音したレコード、“録音盤”というものがある。市販のレコードはあらかじめ音源を収録・複製し商品化したものだが、録音盤はまだテープが一般的ではなかった戦前〜昭和20年代に、何も記録されていない円盤に直接溝を刻んでリアルタイムに音声を記録していったものだ。蓄音機でレコードをかける時代、レコードそのものが贅沢品だったが、録音機材はさらに高価で、放送局や一部の家庭で限定的に所有されていた。

 ここに「天皇陛下玉音」「内閣告諭」と書かれた録音盤がある。前者は「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び……」という言葉で有名ないわゆる玉音放送、後者はその後に流された内閣総理大臣鈴木貫太郎の告諭である。これらは昨年初めて私が公開したもので、昭和20年8月15日、日本の終戦を伝える歴史的な放送を記録したものである。

公開された幻の「玉音放送」(高氏氏提供)

 日本の放送史上最も重要な日付のひとつであるが、これまで玉音放送として耳にしていたものは「天皇陛下玉音」だけで、「内閣告諭」に関しては原稿が残るのみで録音データが世に出ることはなかった。その「天皇陛下玉音」もこれまで放送用に用意した原盤を再生した音声くらいしかほぼ耳にする機会がなかった。当時、放送局は録音盤に記録はしたものの、終戦時一連の資料焼却の中ですぐに破棄されてしまったからだ。

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source : 文藝春秋 2026年5月号

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