服を作るつもりなど、さらさらなかった。流行に敏感だったわけでもなく、装いで自己を語ろうとした記憶もない。そんな私が今、アフリカのケニアという国で、ファッションデザイナーとして生きている。

3歳でピアノを習い始め、大学の音楽学科に進学し、新卒で大手レコード会社に就職した。疑う余地もなく音楽を前提に生きていた20代半ば、東日本大震災は起きた。当たり前だったはずの明日の強度が揺らぎ、死という現実が日常に差し込むと、惰性で生きている自分の輪郭が露呈し、後ろめたさが募った。
もともと「表現者になりたかった」という曖昧で切実な後悔に急き立てられ、28歳で会社を辞め、私は日本を後にして世界へ飛び立った。過去を断ち切れば何かが始まると信じてやまなかったが、何の手がかりも掴めぬまま自由に囚われ、1年の予定だった旅は4年に差しかかろうとしていた。
その日、私は東アフリカのルワンダにいた。首都キガリの小さなアートギャラリーで、偶然一枚の絵に足を止めた。そこに描かれていたのは、色とりどりの洋服とヘッドラップを纏うアフリカの女性たち。筆致は荒いが、洋服の描写だけがやけに細かい。至近距離で覗き込んで、私はハッと息を呑んだ。それは絵の具ではなく、多彩色の布であった。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2026年5月号

