4月3日、創刊71周年を迎える音楽雑誌「レコード芸術」が、7月号を最後に休刊するという告知が音楽之友社から突然になされた。
クラシック・ファンの誰もが予想しなかった事態であり、音楽批評家の舩木篤也、矢澤孝樹と話しあって、存続を求めるweb署名をすぐにたちあげた。
署名は2週間で3000を超えたが、さらに同誌に長く執筆しておられるベテラン批評家たちに「呼びかけ人」になってもらい、国内外の業界関係者(批評家、音楽家、レコード会社、音楽事務所ほか)に直接署名を募って、185名の賛同人を得た。
さて、これらの署名を音楽之友社に直接とどけて存続を訴えたわけだが、経済的な要因による休刊であることは明らかだから、簡単に「では、続けましょう」という話になるわけもない。赤字続きの雑誌を無理に存続させようとすれば、そのダメージが本体に及ぶことは必至。会社の立場も痛いほどわかる。
それでも動かざるを得なかったのは、「レコ芸」という愛称を持つこの雑誌が、日本の音楽文化にとって、特別な存在だからだ。
「レコ芸」は、国内で当月に発売されたクラシックCDすべてを、一枚につきふたりの評論家が批評する「新譜月評」コーナーを中心に、時代やジャンルなどのテーマを設定しての特集、アーティストのインタビュー、各種連載、そしてオーディオ情報なども載せた、総合的なクラシック雑誌である。
国内仕様で発売されたクラシックCDはすべて、ここに批評が載る。読者は、この雑誌を眺めれば音楽界の動向がわかるし、アーティスト側からすれば、録音を出せば必ず「反応がある」ということ自体が、大きな励みだったろう(演奏家のプロフィールのなかで、「レコード芸術特選」を得た、という一文を目にしたことのある方も多いはず)。
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source : 文藝春秋 2023年7月号