沈黙を貫いてきた被告が私にだけ語ったこと
「12番面会室へお進みください」
刑務官に促され面会室へ向かい、緑色のランプが点灯するドアを開ける。6畳ほどの広さの室内は手前側と奥側がカウンターとアクリル板で仕切られている。ほどなくして、刑務官に連れられ1人の男性が現れた。手錠と腰縄はなく、長く伸ばした髪を自然に流している。互いに一礼を交わして椅子に座る。
「本日の面会時間は20分です」
立ち会いの刑務官がタイマーをセットする。直接の交流が始まった瞬間だった。
「何故、私に会ってくれたのですか?」
「それは……」
1月14日、私は日本中が注目する人物と大阪拘置所で初めて、言葉を交わした。
◇
それから1週間後の21日、奈良地裁は、安倍晋三元首相銃撃事件で起訴(殺人罪等)された山上徹也被告(45)に無期懲役の判決を下した。山上被告の弁護人は判決を不服として大阪高裁へ控訴し、今後は高裁で審理が行われることになる。

一方、事件の背景にあった統一教会(世界平和統一家庭連合)に対しては、3月4日、東京高裁が宗教法人法に基づく解散命令を下し、一審の東京地裁決定を支持して教団側の即時抗告を棄却した。統一教会の宗教法人格は失われ、すでに清算手続きが始まっている。
教団に人生を翻弄された山上被告は、公判中の被告人質問でこう語っている。
「統一教会に一矢報いるというか、打撃を与えるのが自分の人生の意味だと思いました」
統一教会の問題は40年以上前から指摘されていた。もっと早い段階で解散という事態に至っていれば、山上被告の家庭が母親による教団への高額献金で崩壊することはなく、安倍元首相銃撃事件も起こっていなかっただろう。逆に言えば、外形的には山上被告が起こした事件が契機となり、統一教会の解散という流れになったことは否めない。では、教団を解散に追い込んだとも言える山上被告自身への量刑を決めた裁判は、どのようなものだったのか。
私は昨年10月28日の初公判から、奈良地裁で行われた裁判をほぼすべて傍聴した。さらに、判決が出される前に2回、判決後に2回(3月末現在)、合わせて90分間、大阪拘置所で山上被告本人と面会した。判決前から複数回にわたって面会したメディア関係者は、私以外にいない。
その上で、審理の経過と判決内容に、強い違和感を抱くに至った。
私は今回の裁判を前に、『文藝春秋』2025年11月号で専門家の意見も交えながら、裁判では山上被告が受けてきた宗教虐待の実態や、政治家と統一教会との関係がどこまで明らかにされるのか、それこそが事件の真相究明に繋がると訴えた。そして、その原稿をこう結んでいる。「山上徹也が直面した『絶望の深淵』は如何なるものだったのか。それは法廷で彼が語る言葉から明かされるだろう」。しかし、山上被告は法廷で十分に言葉を尽くしたとは言い難く、審理が尽くされたとは到底思えない。さらに、下された判決は、安倍氏と統一教会の関係はおろか、教団の悪質性についてもほとんど踏み込まなかった。「この裁判は何だったのか」と空虚感さえ抱いた。
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