中世から響く微かな音色 クラヴィコードの調べ

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ピアノの前身である古楽器のクラヴィコード。14世紀頃に誕生し、バッハやモーツァルトが愛した。この鍵盤楽器を自作し、演奏する音楽家がいる。世界でも稀有な存在の内田輝(あきら)氏を訪ねた。

鍵盤がボックスに入ったようなクラヴィコードを、東京で試演する内田氏。ピアノのような琴のような不思議な音が静かな部屋に響く。写真の楽器は、京都の清水寺で平成の大修理をする際に出た檜舞台の古材を使って作られた。「まさに東洋と西洋の融合」と同氏は語る。2021年に歌手の坂本美雨氏と清水寺で奉納演奏も行った。美雨氏の父、坂本龍一氏にクラヴィコードを納めたこともある。わずかなタッチの違いで音色が変わるため、彼は「ピアノと違う。演奏は難しい」と漏らしたという

「ただ音の小さい楽器だ」。音楽大学の学生の頃、初めてクラヴィコードの音を聴いたときにそう思いました。当時、私はジャズ科を専攻していました。しかし、ジャズ業界の空気が合わず、しばらくして手が動かなくなってしまった。そこで楽器の調律を学ぶようになりました。ある日、中世音楽の先生に紹介され、再び出合ったのがクラヴィコードでした。

 弦の張力が低いために音が小さく、聴くためには私達が耳を開く必要があります。遠くから聞こえる音なのか、自分の内で響いているのか迷うほど繊細な音。昨年の米国公演では黙っていられないニューヨーカーが静まり、パリでは「何を想ってそこに辿り着いたのか」と哲学的に問われ、日本の観客は「癒やされた」と内面への効果を語り、様々な感想が嬉しかった。最近の音楽はメロディーを重視しますが、この楽器は音に耳を傾けたくなる。小さな音は身体の筋肉も緩めます。14世紀から愛されてきたのはそんな魅力もあるからかもしれません。(内田)

ひと口にクラヴィコードといっても、資材によって音色が異なる。右は、清水寺の檜舞台の古材で作ったクラヴィコード。「檜や欅を使いました。明るく、比較的強い音が出ます」と内田氏。真ん中はサイズが小さく、黒檀や神代杉から作られた。「2000年ほど土に埋もれていた神代杉なので、幹が密でないぶん音が柔らかいです」。左は、黒檀や欅、松、杉を使用し、昨年完成した。一番大きくボディも厚めで、残響がきれいに続く。「どれもささやかな音だから、音の大きい楽器とのアンサンブルは難しい。人の歌声や、自然の音が合いますね」。今年は流氷の音を収録するために北海道を訪れた

撮影のために、愛知県瀬戸市の古民家ギャラリーへ下記の3台を運んだ。1台20キロほどのものを小脇に抱える内田氏。中世の音楽家もこうして持ち運びながら、各地で演奏会を開いた。バッハは楽器のなかでもっともクラヴィコードを愛し、名曲も残した

製作はたった1人。1年かけて1台を完成させます

製材から部品作り、組み立て、完成まで工房では気が遠くなるほどのプロセスがある。

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source : 文藝春秋 2026年6月号

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