放送中のNHK連続テレビ小説『風、薫る』の原案となった『明治のナイチンゲール 大関和(ちか)物語』を書き始めたのは、コロナ禍のことである。感染の危険にさらされながらも懸命に働く看護師さんたちの姿を連日のようにテレビニュースで見ていて、日本におけるこの職業の始まりを知りたくなったのだ。

日本の看護師制度の確立に貢献した大関和の存在は、前著『明治を生きた男装の女医 高橋瑞(みず)物語』を書く際の史料収集の過程で、知ってはいた。あらためて彼女に関する史料を読むと、コレラや赤痢などの防疫活動で「奇跡」と言われる成果を挙げたり、日露戦争時の祝捷会で発生した群衆事故で大活劇を演じたりと、ドラマチックなエピソードがたくさんあった。
しかし、性格が主人公向きとは思えなかった。とにかく感情的で、すぐに大泣きするのだ。ついた渾名は、ナイチンゲールをもじって「泣キチン蛙」。また、報酬は二の次で、ひたすら患者に尽くす和の働き方を是としたくなかった。常日頃、私は看護師さんたちの働き方改革が必要だと考えているからだ。
そこで、ともに看護学校で学び、卒業後も看護婦としていっしょに働いた鈴木雅(まさ)をバディ(相棒)として描くことで、バランスをとることにした。ゆえに雅は理性的で、決して涙を流さない。見返りを求めずに働こうとする和に、「それでは女性の経済的自立という目的から外れてしまう」といさめる役割を担ってもらった。
実際、看護婦という職業は、女性が経済的に自立することを目的に作られたといっても過言ではない。和がクリスチャンとして関わった女性のための授産施設では、遊郭から逃げてきた女性たちが、看護の知識や技術を身につけ、看護婦として自立していった。看護婦という職業と遊郭は切っても切れない関係にあり、看護婦の歴史は、女性の近代史そのものだと感じた。
和と雅の関係性や会話部分は想像を交えて書いたが、2人の間に堅い絆があったことは史料から察せられた。
また、拙著刊行後にご連絡をくださった雅のご親族の方々からうかがったお話や提供いただいた史料は、私が描いた雅の人生を裏付けるものであった。
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