新次官は“小説家”、首相の“露払い”役、「菅潰し」の陰で、入試改革で窮地に、年末に異例の交代

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★新次官は“小説家”

 日本郵政グループの不適切販売を巡り、元総務次官の鈴木康雄上級副社長(昭和48年、旧郵政省入省)に情報を漏洩し、次官だった鈴木茂樹氏(56年)が事実上更迭された。メールや面会記録など証拠を手に高市早苗総務相自ら自白を迫ると、鈴木氏は“完落ち”したという。

 後任についたのは、総務審議官だった黒田武一郎氏(57年、旧自治省)。高市氏には官房長として仕えた経験もあり、大臣から「ブイチロウさん」と呼ばれ、頼りにされる様子を多くの幹部が目撃している。夏の人事での次官就任が確実視されており、省内では「半年前倒しされただけ」との受け止めが大半だ。

 黒田氏は明治神宮の武道場に40年以上通う剣士で、部下にも厳しいが、声を荒げるタイプではない。過去2度出向した熊本県を舞台に家族の絆を描いた小説などを著す作家の顔も持つ。初期のガンで仕事をセーブした時期もあるが、今は克服した模様だ。

 鈴木氏に代わり、旧郵政省部局を率いるのは、総合通信基盤局長と総務審議官を兼任することになった谷脇康彦氏(59年、旧郵政省)。1つのテーマにのめり込んでは新施策を打ち出し、実行するブルドーザー型の官僚だ。通信基盤局長としては、携帯料金4割値下げを掲げる菅義偉官房長官と連携。国会答弁も手堅く、高市氏からの信頼も厚い。そのため異例の局長兼務のまま通常国会を乗り切るのでは、との見方も出ている。

★首相の“露払い”役

 北村滋新国家安全保障局長(55年、警察庁)の海外出張が目立つ。昨年9月の就任以降、ワシントンとバンコクでオブライエン大統領補佐官、ニューデリーでモディ首相、北京で楊潔篪共産党政治局委員らと相次いで会談。安倍晋三首相は治安悪化で訪印を中止したが、各国を訪れており、北村氏が首相の“露払い”役を担ったことになる。

 明らかに、谷内(やち)正太郎前国家安全保障局長(44年、外務省)とは異なるスタイルだ。谷内氏は“露払い”で終わらず、各国のカウンターパートと対話を重ねることで信頼関係を築いてきた。

 その谷内氏は今夏まで続投する腹積もりだった。秋葉剛男外務次官(57年)が今夏の定期人事で森健良外務審議官(58年)に交代すれば、後任に秋葉氏を推すつもりだったからだ。が、首相が後任に据えたのは、腹心の北村氏。背景には、谷内氏が日中や日露で経済重視外交を進める今井尚哉首相補佐官(57年、旧通産省)への批判を強めていたことがあった。

 日韓関係を巡っても、両者に亀裂が走っていた。経産省主導で輸出管理の厳格化に踏み切った昨夏。谷内氏は水面下で韓国高官と接触し、関係修復に動いていた。だが、その交渉も対韓強硬路線を主張する今井氏らによって潰され、谷内氏は立腹していたという。要は、安倍首相が北村・今井ラインを選択した形だ。

 首相の威を借りた北村氏は今、国家安全保障局(NSS)の組織再編に傾注している。経済安全保障の観点から、兼原信克前官房副長官補(56年、外務省)が発案した「経済班」設置だ。同班は現在、経産省出身の班長以下、外務、財務、総務省からの参事官級3人を含めて僅か8人。新年度の4月から兼任を含めた20人態勢になり、NSSは総勢100人体制で臨むことになる。

 時に「国家の利益より首相の利益を考えている」と指摘される北村氏。その手腕を不安視する声は尽きない。

★「菅潰し」の陰で

 “京都不倫出張”の和泉洋人首相補佐官(51年、旧建設省)、辞任した菅原一秀前経産相、次官更迭の総務省。菅官房長官に近い人脈が相次ぎ沈む事象を、霞が関は「菅潰し」と受け止めている。

 その陰で対照的なのが、今井補佐官らの一派。菅氏は各府省の官僚を掌握してきたが、例外が首相直轄地の色合いが強い外務省と、もう1つが経産省だった。同省出身の今井氏は官邸で佐伯耕三首相秘書官(平成10年、旧通産省)を従え、本省では新原(にいはら)浩朗経済産業政策局長(59年)を擁する。ここに警察庁出身の北村氏も加わる形だ。

 彼らがポスト安倍は菅氏より、軽い神輿の岸田文雄政調会長が望ましいと見ているのは、周知の事実。口さがない向きは、今井氏が補佐官を兼務したのは「岸田内閣でも補佐官で横滑りするつもりだろう」と囃す。暗闘は続く。

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source : 文藝春秋 2020年2月号

genre : ニュース 政治