宗教家の北村(きたむら)サヨ(1900―1967)は、元旦、山口県玖珂(くが)郡日積(ひづみ)村(現・柳井市)の農家に生まれる。大正9(1920)年、同県の農家・北村清之進と結婚。昭和19(1944)年神告を受け、神の命じるまま辻説法を始める。昭和22年、宗教法人・天照皇大神宮教(てんしょうこうたいじんぐうきょう)を設立、集団で瞑目し、「無我の舞」を踊るところから「踊る宗教」といわれた。一人息子の義人(よしと)氏の長女がサヨなきあとの教主である。 ※文藝春秋1990年2月号掲載
昭和21年1月5日、獣医だった私は、陸軍大尉としてパラオで終戦を迎え、やっとのことで郷里の田布施(たぶせ)に辿り着きました。母はきっと、「おお、義人か。ご苦労じゃったのう。ゆっくり休めや」と言って、やさしく迎えてくれるに違いないと、家の玄関に立ちました。見ると、たくさんの履物が脱いであり、座敷には多くの人が集まっている気配がする。〈もしかすると、おやじが死んで、その法事でもしているのだろうか〉と不安気にしていると、そこへ母が現れ、いきなり、
「おれは、神経になったぞ」
と言うのです。神経になったというのは、気がふれたという意味の方言です。母をじっと見つめましたが、狂っている様子もみえません。
青春をかけて日本民族のために戦い、奇跡的に生還してきたのに、戦争に負けると、母親まで息子を愚弄するのかとムカッときて、私は家を飛び出しました。
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source : 文藝春秋 1990年2月号

