爆弾発言が飛び出したのは、収録の半ばを過ぎた頃だったでしょうか。収録とは、月刊「文藝春秋」公式Podcastのこと。編集部のN君が司会を務め、編集長や部員が雑誌の舞台裏を話す音声番組です。ただ、4月に私が編集長に就任して、記念すべき収録第1回のテスト中に機材が壊れ、急遽中止になるという呪われたスタートを切りました。機材を買い直して、就任から5カ月が過ぎた9月17日、初の収録が行われたのです。
9月10日に発売された10月号のある記事について、その裏話を語る最中、N君が穏やかならぬことを言うのです。その記事は「『日本一悪い男』の告白」。“福岡県議会のドン”と呼ばれた藏内勇夫・前福岡県議会議長のロングインタビューを、一面識もなかった編集部員T君がどうやって実現したのかを振り返っていました。

その時、聞き手のN君がこう言ったのです。「取れなければ帰ってくるなって言ってましたよね」。待て待て待て――。このパワハラ厳禁の世の中で、そんな発言をしたら一発アウト。「史上最短の編集長」確実です。そうした発言は一切していないと即訂正しました。ただ、発言はしていないが、T君がそう受け止めた可能性は否定できません。以後、注意いたします。
さて、T君はどうやって藏内氏のインタビューをとれたのか。それは、実はきわめてシンプルな話です。何度も福岡に通い、本人には手紙で依頼をし、周囲の人にもお願いをし、その結果、応じてもらうことができた。藏内氏のインタビューの音声起こしを読みましたが、こんな発言がありました。
<うちの母ちゃんが信用しただけある(笑)。それと手紙の誠実なところ。俺ね、手紙全部捨てずに3つとも取ってるんだよ>
T君は藏内氏に会えない中、何度も手紙を書いて依頼を続けていました。自宅にお願いに通ううちに、藏内氏の奥さんが同情してくれたのでしょうか。自宅に上げてもらい、話を聞くことができたのでした。
福岡県議会を巡る疑惑は、地元の西日本新聞の報道から始まりました。新聞協会賞を受賞したこのスクープには、称賛しかありません。一方で、このネタが全国ニュースになり話題になり始めると、どの新聞、テレビ、ネットも後追いし、“祭り”が始まりました。私も「週刊文春」編集長時代、何度も味わいましたが、一番槍が最も大変でリスクも高い。ところが、それまで及び腰だった他のメディアが、対象が水に落ちた犬になった瞬間、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と一斉にバッシングし、消費していく。繰り返しますが、西日本新聞は立派です。ですが、他のメディアで、藏内氏の言い分を聞こうとしたメディアがいくつあったのでしょうか。告発側、藏内氏の言い分を並べて、ファクトを検証することが必要なはずです。また、どうやって藏内氏が福岡県議会のドンにまで登り詰めたのか。それも知りたいと思いました。脅しとカネだけで、ドンになれるものなのでしょうか。100%黒の人間も、100%白の人間もいないはずです。
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