ニュースを見ていて暗澹たる気持ちになる。そんなことが少なくありません。本稿を書いている10月7日も、大臣が選挙で支援してくれなかった地元首長の自治体の道路予算を「大幅にカットした」と発言した問題が報じられています。公に奉仕するという考えではなく、権力を私(わたくし)のために使う。こんな政治家が総理の「知恵袋」だそうで、「日本、大丈夫か」と思わざるをえません。世界に目を転じれば、あの国の大統領を筆頭に、ひどすぎる権力者のオンパレードです。
こんな時だからこそ、私のためだけに生きず、利に流されず、節を貫き、誠を持って生きた日本人たちを特集することにしました。題して「昭和百年 美しき日本人50」。これは、本誌の名物企画でもあります。一番最初に特集したのは1995年。戦後50年の特別企画「美しき日本人50の肖像」でした。2回目が2017年。こちらは「『明治百五十年』美しき日本人50人」という特集でした。
私の好きな言葉に「政治家は歴史という名の法廷に立たされている被告である」があります。中曽根康弘元首相の言葉で、回顧録のタイトルにも「自省録—歴史法廷の被告として」と使われています。そして、この言葉は、政治家だけにとどまらず、経済人や文化人などすべての人にも当てはまるのではないでしょうか。昨今、今だけ、自分だけがよければいい、そのためなら嘘をついてもいいという考えが蔓延している気がします。美しさの対極にある生き方「勝てば正義」「儲ければ正義」が世界を覆っています。

4月に編集長に就任して、月刊「文藝春秋」の果たすべき役割は何かをずっと考えてきました。それは、「歴史に刻む」ということではないかと考えています。まっとうに生きた日本人をしっかり文字にして、印刷して、記録として残しておく。それが歴史となり、残っていく。ただ、難しいのは、美しく生きている人ほど、自分で功を誇らないことです。
今回の企画で取り上げた川村隆さん。日立を再生させ、経団連会長に推されますが固辞し、受けたのが「いいことなんて一つもない」東京電力ホールディングスの会長でした。元東電取締役の西山圭太さんは、こうおっしゃっています。「無私の人である川村さんは、自分の口で実績を語るような人ではありません」。こういう時こそ、本誌の役割「歴史に刻む」を果たせるのではないかと思っています。

今回、取り上げた方々は政治家、経営者、芸術家、スポーツ選手などさまざまなジャンルに及びます(ちなみに50人としていないのは、巻頭を飾る上皇ご夫妻が1記事でお二人のため)。有名人もいれば、無名の市井の人もいます。どこから、誰から読んでいただいても構いません。お読みいただくと、「日本人、捨てたものじゃない」と思っていただけるはずです。
(編集長・加藤晃彦)
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