なぜ石川祐希の記事が月刊「文藝春秋」に載ったのか

編集長ニュースレター Vol.12

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「なんで、あんなに男子バレーは強くなったんですか?」

 毎月2回開く企画会議で、某デスクからこんな疑問が出ました。男子バレーが、アジア選手権で優勝し、2年後のロサンゼルス五輪の出場権を獲得した直後のことです。実は私、文藝春秋の中では、バレーボールに詳しいと自負しております。かつてスポーツ雑誌「ナンバー」在籍時に、ナンバー史上初のバレーボール増刊を作ったこともあります。そんな私は、ドヤ顔で「それは石川ですよ」と答えました。男子バレーを見てきたファンからすれば、「当たり前だろ」と怒られそうですが……。

石川祐希氏 ©時事通信社

 バレーボールを取材するようになったのは、2004年、全日本女子が出場権を獲りメグカナブームに沸いたアテネ五輪の世界最終予選からです。当時は女子が人気で、男子バレーはお荷物とさえ見られていました。それが、今やネーションズリーグなどの世界大会でメダル争いをするようになり、オリンピック出場権も五輪2年前に獲りました。スポーツ界では、そのジャンルを一変させるような選手が出る時があります。古くは野球の長嶋茂雄、サッカーの三浦知良、最近では大谷翔平もそうかもしれません。一人のスーパースターが、人気と実力を一気に引き上げていく。男子バレーにおいては、それが石川祐希選手ではないかと思います。

 月刊「文藝春秋」はスポーツ雑誌ではありません。しかし、石川祐希選手ぐらい大きな存在であれば、取り上げるべきではないか。そこで、「日本バレーを変えた男 石川祐希」という記事をやることにしました(タイトルは最初から決まっていました)。

 もう一つ、男子バレーの記事をやると決めた理由がありました。それは、スポーツライター田中夕子さんの存在です。男子バレーを長年取材してきた田中さんなら、石川選手の存在の大きさを男子バレーの歴史を俯瞰しつつ書けるのではないかと考えたのです。

 田中さんとは、かつてバレーボール会場でよくお会いしました。当時、全日本の試合には新聞、テレビが取材に押し寄せますが、Vリーグ(現・SVリーグ)の試合ともなれば、記者が取材に来るのは、決勝トーナメントが始まってからという状況でした。特に地方の大会では、木村沙織さんクラスの全日本選手が出ていても記者はバレーボール専門誌と田中さんと私の3人しかいないということもよくありました。Vリーグだけではありません。高校や大学の試合にも田中さんはよく顔を出していました。当時、今のような男子バレーの人気はありませんでした。取材に行っても、記事の出し先があるわけではなく、経費も出ない。つまり、赤字の取材も多くあったはずです。

 今回の記事で印象的な場面がありました。2013年9月8日早朝、2020年の東京五輪の開催が決定し、日本中が祝福ムードに包まれていました。しかし、その日、男子バレーは、世界選手権出場権をかけたアジア予選で韓国に完敗。24カ国の出場枠があった世界選手権の出場を逃すのです。オリンピックの出場枠は12カ国ですから、メダル争いどころか、五輪出場すら遠い目標でした。田中さんは、そんな場面も、石川選手が春の高校バレーで優勝した時も、中央大学でプレーした時も、現地で取材していました。

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