ラファエルの羅針

第7回

柚月 裕子 作家

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エンタメ 読書

【前号まで】 三十歳のエリート医師である三上優人は一年後の心臓血管外科の専門医試験を見据え、大学の附属病院で仕事に励んでいた。ところが、教授の久保田壮一の依頼で、三上は、二年の間北海道の病院へ赴任することになる。年下の恋人を地元名古屋に置いて、函館の北にある小さな町・白砂野町の白砂野町国保病院で働き始めるも、三上は周囲に馴染むことに抵抗があった。そんなある日、弟の大貴から電話がかかってきた。

第二章(承前)

 三上(みかみ)は半ばあきれて、小さく息を吐いた。

「白砂野(しらさの)町に来て、まだ一週間しか経ってないのに、どうもなにもないだろう」

 弟の大貴(だいき)が慌てた様子で、言い訳めいたことを言う。

「北海道は、もうかなり寒いよね。今朝の函館の最低気温は三度って、ネットで見た。体調崩してないかなって、ちょっと心配で──」

 三上は部屋の壁際を見た。海が見える大きな窓のほうではなく、もうひとつある腰高窓のほうだ。その窓の下に、パネルヒーターがある。ボイラーで沸かした温水を、各部屋に送り空気を温めるセントラルヒーティングだ。

「医師が体調崩してどうする。大丈夫だ」

 北国は建物や車、暖房器具が寒冷地仕様になっている。温暖な土地が急に冷え込むと寒くてたまらないが、もともと冷え込む土地は寒さ対策がなされているため、建物のなかは想像していたよりもずっと暖かい。

 三上のことを案じて連絡してきたのに、こちらがなにも訊かないわけにもいかず、同じ問いを大貴にする。

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source : 文藝春秋 2026年11月号

genre : エンタメ 読書