メディアの使命とは何か
2019年4月、東京の池袋で高齢者が運転するトヨタのプリウスが暴走し、歩行者ら12人が死傷した。運転していたのは旧通産省の技官トップだった飯塚幸三(当時87)。自身も重傷を負い病院に搬送されたがネットを中心に「“上級国民”だから逮捕されない」というデマが拡散された。
その後もテレビ局の扇情的な報道により、次々とデマが生まれた。「飯塚は119番に通報せず息子に電話をして事故をもみ消そうとした」「フランス料理店の予約時間に遅れそうでスピードを出していた」等々。加害者である飯塚に対するバッシングは彼が裁判で「アクセルとブレーキを踏み間違えたわけではなく、アクセルペダルが戻らなくなり制御不能になった」と主張したことで、さらに激化した。
妻子を失った被害者遺族である松永拓也は飯塚への厳罰を求めた。
本書では、あくまでも事故原因は「踏み間違い」としている。ただし、飯塚は罪を免れるために嘘をついたのではなく、アクセルペダルが戻らなくなったと思い込んだという見立てだ。そして、この見立てをもとに松永と飯塚の長男は歩み寄り、最終的には禁錮5年の刑期中に93歳で獄中死した飯塚の墓参りを松永が果たすまでを描いている。

だが、本書を読み進めるうちに、私には別の見立てが湧いてきてしまった。技術者だった飯塚にとって、アクセルペダルが戻らなかったことこそが真実だったのではないか、と。
本書の冒頭で著者は丹念に事故を再現している。それによれば飯塚の運転するプリウスは250メートルも暴走し、人を撥(は)ねながらゴミ収集車に激突して大破。最大時速は96キロであったとある。
一方、本書後半では飯塚が「歩行器を使えばゆっくり歩け」るものの、自宅では転倒を繰り返す、パーキンソン症候群を患っていた可能性に触れている。そのような弱々しい身体で、いくら動転したとしてもここまでアクセルを強く踏み続けられるのだろうか。
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