
経済学者・成田悠輔氏がゲストと「聞かれちゃいけない話」をする対談連載。第15回目のゲストは、マルクス・ガブリエルさんです。(全3回の完全版後編/前編・中編)
■成田悠輔の聞かれちゃいけない話(ダイジェスト版)
第11回 本庶佑 作文上手な人、文科省に挨拶回りする人が予算を取っている
第12回 黒田東彦 いまは金融も財政も引き締める時です
第13回 Ado 私の不登校体験
第14回 水原希子 山口智子さんと瞑想とSNS
第15回 マルクス・ガブリエル 倫理的資本主義が必要だ
第16回 筒井康隆 AIが文学的に駄目な理由
第17回 内田光子 音楽は教育じゃない、体験よ
■Markus Gabriel 1980年ドイツ生まれ。哲学者。ボン大学哲学科正教授に史上最年少の29歳で就任。著書に『倫理資本主義の時代』『なぜ世界は存在しないのか』など
AI産業の哲学
成田 倫理的資本主義の観点から、現在のAI企業たちをどう評価されていますか。先ほどAnthropicの話が出ましたが、Palantir Technologies(CIAや米軍にも利用される、世界有数のデータ分析AI企業)はどうでしょう。Palantirの経営陣は政治・安全保障に関して癖の強い態度を表明し、物議を醸しています。こうしたAI企業経営者たちの主張は、今世紀的な情報技術の社会哲学の一種と見なすこともできそうです。こうした「哲学」をどう捉えていらっしゃいますか。こうした企業たちは倫理的でしょうか、それとも非倫理的でしょうか。
ガブリエル 相対的に言えば、Palantir TechnologiesはAnthropicよりもかなり非倫理的であり、Googleもまた倫理的とは言えません。
私はこれらの企業の好き嫌いを言っているわけではありません。単に私に見えている「構造」を述べているだけです。
たとえば収益を見てください。Anthropicは私の知る限りで90~300億ドルのあいだと推定し、Googleは言うまでもありません。Palantirは公式な収益は分かりませんが、約45億ドルと言われています(編集部注:Googleの親会社Alphabetの2025年売上高は約4,000億ドル。Anthropicの年換算売上は2026年5月時点で300~470億ドル程度と推定される。Palantirの2025年通期の売上高は40億ドル台)。
企業の規模と構造を見ると、Anthropicは急速に成長していますが、明らかに巨大なグローバル企業であるGoogleには及びません。Palantirに至っては、はるかに小規模です。
私の見方では、Palantirは「哲学的企業」として自らを劇場的に演出しすぎているために過大評価されています。その哲学の多くは、真剣な知的作業というよりイデオロギーに近い。いわゆる『テクノロジカル・リパブリック」(技術の共和国)(PalantirのCEOであるアレックス・カープらの著書。AI企業は利益のためだけでなく、西側文明を守るために国家と協力すべきと主張している)をめぐる議論なども、率直に言えば厳密な学問的水準に達していません。
これに対してAnthropicやGoogleの一部――より正確にいうとGoogle DeepMind(Google傘下のAI研究機関。囲碁AI「AlphaGo」を開発し、現在は生成AI「Gemini」の中核を担う)などには、実際に科学的で知的に厳密な研究文化があります。もしあなたの会社にデミス・ハサビス(Google DeepMindのCEO)のような人物がいるなら、それは称賛すべきことです。まさに世界水準の科学的才能ですから。
これらの企業の長期的な規模や持続性を比較すると、その差は明らかです。
成田 GoogleはAnthropicの大株主でもありますよね。
ガブリエル 400億ドルくらいの出資をしていますが、非常に賢い戦略です。
AI競争に勝つのはGoogle?
ガブリエル 繰り返しますが、Googleが道徳的に完全だと言っているわけではありません。しかし相対的に、より倫理的に真剣な企業の方が、より持続可能な知的・ビジネス的エコシステムを構築しているように見えるのも確かです。
つまりAI時代は明らかに哲学的な時代になっている。その証拠に現在の主要AI企業のほとんどは、哲学者や倫理学者、あるいはそれに類する助言者を雇っています。
OpenAI(ChatGPTで知られるアメリカのAI企業)においてさえ、多くの哲学的議論は実質的にサム・アルトマン(ChatGPTの開発者でOpenAIのCEO)自身を通じて行われています。将来的に大成功を収めるかは別として、彼は常に哲学的主張を行っています。
個人的には、現時点ではGoogleが最終的にAI競争に勝つ可能性が高いと考えています。2年前であれば違う答えをしていたかもしれませんが、Googleは急速に追いついてきました。卓越した研究者と高度に洗練されたビジネスモデルを持っています。そしてその成功の一部は、倫理的・制度的成熟とも関係していると思います。

成田 ただ、倫理的成熟と経済的成功のどちらがどちらを生んでいるのか、因果関係はわかりません。Googleは検索・広告・クラウドという巨大な収益源を持っていたからこそ、倫理的な研究文化に投資する余裕があったという面もありますね。さらに大切な違いとして、Palantirは米国政府を主要顧客とする米国内志向の企業である一方、GoogleやAnthropicはよりグローバルで、官民大小多様な顧客に向き合う企業です。
ガブリエル それは、その通りです。
成田 そうした違いを考えると、企業における倫理と経済の関係はもっと複雑な気がします。各企業が対峙している顧客環境そのものが、企業の倫理性を暗に規定しているのではないでしょうか。
ガブリエル そうですね。そしてもう一つ重要なのは「矛盾」です。企業が矛盾したイデオロギーに基づいているのは、かなり悪い兆候です。
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