作家たる者、今日このテーマでエッセイを書かずしてどうするというのであろう。
昨日を以て、17年間在籍した教育関係の会社を辞すこととなった。厳密には明日から長期の有休消化期間に入るのだが、そのようなことは最早どうでもよい。とにかく私は、今日からもう会社に行かなくてよいのである。「もう会社に行かなくてよい」。何と素晴らしい響きであろうか。あまりに素晴らしい響きなのでもう一度書いてみよう。「もう会社に行かなくてよい」。素晴らしい。本稿をすべてこのフレーズで埋め尽くしたい気分である。
私は昨年第32回松本清張賞を受賞して作家デビューを果たしたのだが、実は受賞の第一報に接したその瞬間から会社を辞めるか否か悩み始めた。会社を辞めれば当然定期的な収入は入ってこないし、各種保険料の負担額も増えよう。健康診断も自発的に受診せねばならない。これから退職金が支給されるとは言え、それもいずれ尽きる。夢を叶えたからといって、これからの人生がすべてバラ色と確定したわけではまったくない。
しかし、私は結局会社を辞すことにした。というのも、厚生労働省発表の「簡易生命表」によれば、この国の42歳男性の平均余命は40.11年(令和6年)とある。私に残された時間はあとわずか40年しかないのである。フルパワーでものを書ける期間はもっと短い。ゆえに、会社とはここで訣別せねばならないと断じたのである。不安は尽きないが、今はそのような状況に置かれることになった己をただただ寿ぎたいと思う。

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