進次郎必読! 西尾市長の「夜だけ育休」日記

中村 健 西尾市長
ライフ 働き方
 小泉進次郎環境大臣(38)の育休取得が、話題になっている。国会審議や大臣としての決裁事務は続けながら、勤務時間の短縮やテレワーク(在宅勤務)を利用し、2週間分の休みを取るという。

 男性大臣の育休には賛否両論あるが、組織のトップの例として参考になりそうなのが、小泉大臣と同世代である愛知県西尾市の中村健市長(40)だ。中村市長は昨年の11月と12月、2か月にわたって独自の育休を取得してニュースになった。

 昼間は毎日、通常通りに働くが、午後6時以降の公務は取り止め、早めに帰宅して家事や育児にあてる。変則的な「夜だけ育休」という、時短勤務のイメージだ。

 大臣や市長は特別職の公務員だから、残業や休日出勤に関する規定がない。育休に関する制度もない。何日かまとめて育休を取った首長は過去にいるが、こうしたスタイルは中村市長が初めてだった。

三河湾に面した西尾市は、人口およそ17万人。ここで生まれた中村市長は、大阪大学法学部を出て西尾市役所に入所。2013年から市議会議員を1期務めたあと、2017年の市長選に当選して、現在1期目だ。公務員で育休中の妻(35)、2歳の長男、昨年9月に生まれたばかりの次男との4人暮らし。

育休は、市長の仕事にどんな影響を及ぼし、父親として何を感じさせたのだろう。/文・中村健(西尾市長)

首長の「夜だけ育休」は全国初

 11月1日(金)

 育休初日。午後5時頃に帰宅。家族4人での生活が始まって間もないので、ペースがつかめない。自分に何ができるのか、戸惑いもあるのが正直なところだ。

 市会議員だった頃、市の男性職員の育休取得状況を何度か質問したが、「今年はゼロでした」という回答がたびたびあった。1992年に制度ができて以来、取得者は7人しかいない。厚労省の調査によると、2018年度の男性の育休取得率はわずか6.16%。世の中全体で男性の育児参加が進まない中でも、西尾市は極めて遅れている。影響力のある市長という立場だからこそ、時短をあえて「育休」と定義づけることで、メッセージを発信できると思った。

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中村市長

 長男が生まれたのは、市長選に出馬表明する3日前だった。当選後も、市長という仕事が手探りの状態で、子育ては妻に任せきり。家に帰ると夜の8時か9時だから、長男とは、朝起きてから出勤までの短い時間しか一緒に過ごせなかった。2人目も同じようにしたら、妻が潰れてしまうかもしれないと思ったし、自分で子育てをしたい気持ちもあった。

 11月4日(月)

 振替休日だったが、午後5時から文化会館で「西尾城址薪能」。冒頭であいさつして、休憩に入った6時過ぎに退出させていただいた。

 育休を取るなら家庭に役立つ形が良いと思ったので、妻に相談した。妻は、公人の私に、公務をないがしろにしてほしいとは思っていない。「1日いてもらう必要はない。夕方以降、子どもを寝かしつけるまでの3時間くらいが、とにかく大変」という話だった。そこで、昼間は通常通りに仕事をし、夕方以降の公務を基本的になくすことにした。公人としての務めと、夫、父親としての務めの両方を果たせると考えたからだ。

ヤフーニュースのトップに

 11月5日(火)

 始業前の朝8時25分から、職員のみなさん向けに朝の館内放送。昨日が休日だったため今月は火曜になったが、毎月最初の月曜日にやっている。10月7日の放送で、育休の取得をご報告した。以来、各部局から出席の依頼がある夜の公務については、秘書から丁寧に説明をして、お断りするか、6時までに失礼させていただく了解をもらっている。

 11月と12月は例年、納会や忘年会など夜の公務が毎晩のようにある。この時期に育休を取ると決めたのは、夜の公務が増えるという理由もある。

 11月7日(木)

 鹿児島県霧島市で、全国市長会が主催する「全国都市問題会議」。2泊3日で、毎年恒例の行事だ。去年は私が参加したが、今年は長島幹城副市長に行ってもらった。

 生後2か月目の次男を抱っこするのは、まだ慣れない。私の抱っこでは、泣きやんでくれないことも。

 11月8日(金)

 定例記者会見で2か月間の育休取得を発表したのは、9月24日。翌日の中日新聞や全国紙の愛知版に記事が載った。育休に入ると、全国版の記事やテレビの取材が増えたが、11月3日の朝日新聞の記事が、ヤフーニュースのトップページに掲載されたのがきっかけだ。知人からのLINEでそのことを知らされ、そんな大きなニュースになるとは思わなかったので、びっくりした。これを機に私の育休を知る人が一気に増え、取材も増えた。

 TBSの『あさチャン!』は電話インタビューだけだったが、フジテレビ『とくダネ!』は、朝の自宅出発から帰宅後まで密着取材。今日はCBCテレビの『チャント!』が放送され、夜はメ〜テレの『ドデスカ!』が自宅へ撮影に来た。

 食事中やお風呂にまでカメラが入るのは慣れないが、育休の意義を伝えるため、できるだけ協力している。妻も理解してくれている。

「育休、頑張ってね」

 11月9日(土)

 午前9時から、吉良コミュニティ公園で「2019きらまつり」に出席。旧吉良町は、2011年に西尾市に編入された。吉良上野介義央公は忠臣蔵では敵役だが、地元ではいまも名君として慕われていて、来月の命日には、菩提寺で317回目の法要がある。

 公園内をご挨拶に回ると、市民の方から「ニュース見たよ」「育休、頑張ってね」と、声をかけていただいた。やはり女性の方が多かった。

 11月16日(土)

 この日と翌日、「全国お茶まつり愛知大会」と関連事業の「西尾の抹茶博」を開催した。抹茶の名産地である西尾市として、今年度一番大きな予算をかけたイベントだ。

 久しぶりに長男と、スーパーのチラシを見て物の名前を当てるクイズをした。知識が深まっていることがわかり、とても嬉しかった。2歳になってから、言語的な発育がすごい。

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長男に読み聞かせ

 11月20日(水)

 今日は、長男が保育園に行く日。年少さんになるぐらいまでは、なるべく家庭で親といる時間を長くと思っている。とはいえ、妻の負担も考え、週に1度、保育園に行く。幸い、長男は保育園に行くのが好きなようだ。給食でメロンパンが出て美味しかったとか、積み木をやって遊んだとか体操をしたとか、いろいろ教えてくれる。

 私も送って行くことがあるが、父親が来ているのはほとんど見ない。圧倒的に多い母親の姿が、育児負担の偏りを感じさせる。

 11月23日(土)

 午前中から明日の夕方まで、妻と息子2人は妻の実家(車で1時間ほどの距離)へ。おもちゃ部屋の片づけや、部屋の掃除をした。

 11月25日(月)

 6時に帰宅。抱き方に慣れてきたせいか、次男を抱っこしていると笑顔になることも増えてきた。今日は、長男が妻への抱っこをしきりにねだったため、私が次男を寝かしつけた。抱っこしている状態では眠ってくれるのに、布団に寝かせると起きて泣いてしまうことが何回か続いた。

 育休を取らなければ、こういうとき母親の負担が大きくなることはわからなかっただろう。

ひと月が過ぎて

 11月29日(金)

 今日から市議会の12月定例会が始まったので、公務のスケジュールは議会優先になる。各部局からレクチャーを受け、意見を言う。

 育休スタートから、ひと月。賛否についてネットやテレビのニュースを見て感じるのは、企業戦士としてバリバリ働いてこられた60代や70代の男性には、ご理解をいただくのがなかなか難しいということだ。女性のほうは年代に関わらず、特に若い世代ほど、共感していただいているケースが多い。同年代の男性についても、おかしいとは言われない。

 通常、私の元まで届くご意見は圧倒的に反対のほうが多い中、育休については賛成のご意見も多くあったから、多くの方に支持されているのではないかと感じている。

 12月1日(日)

 午前中は公務。午後はまとまった時間が取れたので、長男と一緒に公園へ。すべり台をしたり、松ぼっくりを拾ったりして遊んだ。外で遊ぶのが好きなようだ。

 市民の方からは、「選挙で選ばれた立場は、一般とは違うんじゃないの」というご意見もあった。「会社員や公務員は育休を取ると給料が減額になるけれども、市長の給料は変わらないんでしょ?」とも言われた。

 日本社会の1番大きな問題は人口減少だから、全国の自治体はこぞって子育て支援に力を入れている。もちろん、医療費を無償化したり待機児童をなくす施策も大事だが、家庭に目を向けたとき、母親だけに負担が偏ったり地域で孤立していては、子どもをたくさん持ちたいという意識にはなかなかならないはずだ。

 子育て世代の首長として、自分の子どもが生まれたときに家庭をおろそかにしながら、「子育て支援をやっています」では整合性がつかない。自分の家庭のことをしっかりできないのに、「西尾市は子育てしやすい街です」とは言えない。

 12月2日(月)

 午後5時から西尾警察署で「年末特別警戒出発式」。犯罪や事故が多い年末に向け、警戒活動に当たる警察官や市民を激励に行く。大事な公務なので出席し、夜7時すぎに帰宅。いつもより遅くなったため、子どもたちはお風呂を出たあとだった。

 12月3日(火)

 一昨日ご逝去された現職市議のお通夜。帰宅は午後8時と昨日に続いて遅くなったが、子どもたちとおやすみの挨拶だけはできた。

 12月4日(水)

 次男の首がだいぶ据わってきた。顔の向きや手足を動かすことも多くなり、少し抱きづらさはあるが、元気であることに変わりなく嬉しい。最近、曇りの日が多かったが、今夜はいい天気。お月さまを見るのが好きな長男は、すごく喜んでいた。

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次男を抱っこする

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source : 文藝春秋 2020年3月号

genre : ライフ 働き方