コロナ・チェルノブイリ

新世界地政学 第104回

ニュース 国際

 コロナ・ウィルス感染が広がるにつれ、中国では米国で去年大ヒットしたドキュドラマ『チェルノブイリ』に関心が集まっているようだ。チャットルームでの書き込みには「自由な情報を保証するほうが空母や月面到着や超大国のパワーよりよほど人々の安全にとって頼りになる」との書き込みもある。

 チェルノブイリは1986年4月26日、旧ソ連邦のウクライナで起こった史上最悪の原発事故である。4号機の原子炉が爆発、大量の放射性物質が飛散、住民16万人が避難、移住した。事故対応に当たった運転員や消防士など50人が被ばくで死亡、被ばく関連の死者はその後4000人に上ったとされる。事故の5年後、ソ連は崩壊した。

 コロナ・ウィルスが中国のチェルノブイリになるのかどうか……感染はまだ広がっている。どのような形で収拾するのか現時点では見通せない。それでも、共産党体制の構造的脆弱性を露呈させたことは間違いない。

 最大の問題は、この政治体制が唯一無二の正統・正義であり、間違いを犯さない無謬性を体現しているとの建前を取っていることにある。だから、失敗を認めたがらない。権力者は「悪い知らせ」を忌避し、それを国民に知らせることを唾棄する。

 中国政府はウィルスによる感染を19年12月31日、世界保健機関(WHO)に通知したが、中国国民にそれを伝えたのは20年1月20日である。国民はこの間、自らの命に関わる的確な情報を知らされなかった。チェルノブイリの時には、スウェーデンが最初に放射能の線量異変を検出したと公表した。ソ連の国営メディアが事故を伝えたのはその数時間後、事故後ほぼ3日経っていた。

「悪い知らせ」のメッセージを極度に嫌がる体制の習性は、それを知らせるメッセンジャーに罪をなすりつける傾向を生む。今回は、武漢市と湖北省政府のトップがその役回りを引き受けることになった。チェルノブイリ事故では、事故調査をする前に、運転員や消防士ら6人が早々と処分を受けた。最高責任者の発電所所長は党籍剥奪、刑務所送りとなった。

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source : 文藝春秋 2020年4月号

genre : ニュース 国際