コロナ・ショックの震源地の中国だが、その後武漢の感染を押さえ込んだとして、いまでは対コロナウイルスの先進国として、そしてその後感染拡大でもがき苦しむイタリアやスペインへの感染対応援助国として、登場しつつある。
市民の自由と個人の意思におかまいなしに全体の利益――中国共産党体制といってもよいが――を優先させる政治体制が、今回の危機では中国の強さとして作用している。中国共産党はいまここぞとばかり、「中国ウイルス」(トランプ米大統領)の汚名をそそぎ、むしろこれを奇貨として中国の統治システムの優位性を謳いあげる大宣伝攻勢に打って出ている。
なかでも、第4次産業革命の中核技術であるAI、ビッグデータ、5Gなどを駆使した感染者追跡、消毒、配達、検温、遠隔通信の面でさまざまな取り組みを試みている。
アリババは健康状態や旅行歴に応じて各人のウイルスへの曝(さら)され度合いを即座に表示できるQRコードを導入した。これが緑でないと職場やビルに入れない。虚偽申請が分かった場合、赤に分類される。
ウィーチャットは、列車や飛行機で感染者と接触があったかどうかをスマホで検索する感染リスク探知アプリを開発した。都市によっては地下鉄に乗るに当たって、実名登録制や予約乗車制を実施しているところもある。
メグビーは5m以内であれば毎秒15人まで識別できるAI体温測定システムを開発した。誤差は±0.3℃。
達摩院(アリババ系研究機関)は新型肺炎の疑いのある患者のCT画像を20秒以内に判読することができるAI画像診断システムを開発した。
電話による健康確認サービスも急ピッチで普及している。これまでだと200人に対して5〜7時間かかった作業がこれだと5分でできる。
隔離された患者に薬と食料を届けるための無人搬送ロボットやドローンによる監視、検温、消毒も武漢市はじめ汚染地域で導入されている。スタートアップ情報サイト36Krによると、京東物流では無人配送車2台を緊急に武漢に運び、配送業務を始めた。同社へは武漢第9医院から毎日10〜20件の注文があり、そのうち50〜70%が無人配送車で配達されているという。
中国ではコロナ・ショックの前からオンライン診療のウィードクターが24時間対応の無料オンライン問診を開始していたが、今回、病院に行くことを嫌う人々が急増し、オンライン診療の普及を促している。
テレワークもすでに普及していたが、アリババは「釘釘」と呼ぶテレワーク・サービスを中国国内のほぼ半数に当たる1000万社に無償提供し、会員数は2億人になった。現在、中国国内で1800万社超、計3億人以上がリモートワークに従事している。
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source : 文藝春秋 2020年5月号