「山口さんに必要なのは依存症の経験がある仲間です」。薬物依存症で苦しんだ経験がある高知さんはそう語る。
<この記事のポイント>
●薬物依存症に苦しんだ自分は、山口さんの苦しみがよくわかる
●依存症の世界では「魔の2年目」が分岐点となる
●今年5月、依存症の自助グループを立ち上げ、清原和博さんも加わった。自分も本当に救われた。山口さんも一緒に回復を目指して欲しい
一人では回復できない病気
「やめようと思えば、いつでもやめられる」――。2度目の事件を起こしても彼はそう考えているかもしれません。僕は薬物で彼はアルコール。依存の対象は違いますが、彼の報道に触れていると、かつての自分の姿をみている気分になります。
9月22日、TOKIOの元メンバー、山口達也さんがバイクで信号待ちの乗用車に追突したというニュースが飛び込んできました。山口さんの呼気から基準を上回るアルコールが検出され、酒気帯び運転の現行犯で逮捕されたというのです。
山口さんがアルコール絡みの事件を起こしたのはこれで2度目です。
2018年には酒に酔った状態で女子高生に無理やりキスをしようとして、強制わいせつの疑いで書類送検されています(起訴猶予処分)。この事件によって山口さんはTOKIOを脱退、ジャニーズ事務所の退所を余儀なくされました。当時からアルコール依存症が指摘されており、その後、女性週刊誌のインタビューで禁酒したと語っていたにもかかわらず、またしても酒が原因で法律違反を犯してしまいました。
今回の報道後、僕はツイッターでこう呼びかけました。
〈山口達也さんの事故の件を聞き衝撃を受けている。「お前と一緒にするな」とバッシングを受けることは覚悟している。でも依存症は根っこは同じなんです。山口さん今度こそ俺達の自助グループに繋がって欲しい。山口さんの辛さや孤独を一番理解できると思う。周囲の皆さんどうかサポートの上繋げて下さい〉(9月22日付)
〈山口さん依存症の可能性が高いと思ったので俺も勇気を出してツイートしました。助けになりたいと心から願っています。
そして助けにまわることで俺たちも助けられます。
依存症は甘くない。一人では回復できない病気なんです。〉(同前)
高知東生氏
僕自身は依存症からの回復途中であり、完全に脱したわけではありません。この9月30日で執行猶予期間は終わりましたが、依存症に完治という言葉はないし、偉そうに上から目線で語るつもりもない。ただ僕には山口さんがどのように苦しんでいるか、よく分かります。
僕が覚醒剤と大麻所持の現行犯で逮捕されたのは4年前のことです。
16年6月24日、愛人女性と横浜市内のラブホテルで過ごしていたところ、「動くな」と大人数の捜査官が部屋になだれ込んできました。通称マトリ、厚生労働省の麻薬取締官です。目の前にある全てのものがスローモーションに見え、「終わった」と思うと同時に、ほっとした感情が沸き起こりました。
辛かった妻との別れ
「ありがとうございました」。僕は思わず捜査官にお礼を言っていました。これでクスリを止められるという気持ちからです。
山口さん同様、僕も事件によってすべてを失いました。仕事、仲間、友人……。とりわけ辛かったのは妻との別れです。元妻で女優の高島礼子との結婚生活はすでに17年経っていましたが、夫婦関係は良好でした。愛人の存在や薬物使用に罪悪感はありましたが、彼女にバレなければ傷つけることはないと身勝手な言い訳を作っていた。
そんな彼女に女優業を続けてもらうため、僕にできる唯一のけじめが離婚でした。
保釈後に彼女が記者会見で頭を下げる姿を見ました。何の罪もない彼女が記者に質問される姿を目の当たりにし、自分への怒りと彼女に対する申し訳なさで胸が張り裂けそうでした。彼女は、愛人とラブホテルで薬物に耽るという最低な所業を罵ることはなく、僕のことを「同志であり親友」と言ってくれた。本当に感謝の気持ちしかありません。
昨年から芸能界では、ピエール瀧さん、沢尻エリカさん、槇原敬之さんなど、薬物事件が多発しています。たしかに芸能人、タレントは、人気商売であり特殊な職業です。なぜ芸能界では薬物事件が多いのかとよく聞かれます。
僕の場合、薬物と出会ったのは芸能界に入る直前、水商売をやっていたころです。高知県から逃げるように上京した僕は、東京の煌びやかな世界にすっかり魅せられた。バリバリ仕事していい車に乗って、夜はいい酒を飲んで理想の女性と付き合う。有名企業の重役や中小企業の社長たちはそんな生活を送り、そのコミュニティに薬物があった。初めて使ったときは「なんだこれ?」と快感もなかった。薬物を味わいたいというより、彼らから仲間外れにされたくない、そんな意識だけでした。
大きな目標や夢を掲げても、なかなかたどり着けないのが芸能界です。言うまでもなくタレントとしての力量は重要ですが、それだけでは成立しない。事務所やマネージャーの協力も必要ですし、制作側の意向などもある。すべてが同じ方向にならないと上手くいかない。だからストレスの多い職業ともいえます。
ただ知名度、影響力が大きいので、一度の失敗が命取りになる。もちろん自業自得なのですが、世間を騒がす事件を起こせば激しく叩かれ、社会的に抹殺される。顔、名前が知られているなかで世間に晒されるのは本当に辛い。「高知東生とバレてはいけない」と神経過敏になり、外出の際、サングラスにマスク、それにカツラをつけていた時期もあった。そういう意味では一般の方よりも社会復帰のハードルは高いように思えます。僕が51歳にして味わった絶望感は凄まじいものでしたが、ジャニーズのトップアイドルだった山口さんが味わった辛苦はちょっと想像がつきません。
山口達也
「魔の2年目」で地獄を見た
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source : 文藝春秋 2020年11月号