安倍首相に代わるのは菅官房長官で決まりらしい、との情報は受けていたので菅氏の登場には驚かなかったが、新総理は誰を官房長官に指名するのかには関心を刺激された。首相にとっての官房長官くらい、重要な協力者もないのだから。それで想像を愉しむ気になったのだが、私だったら河野太郎にするだろう。理由は2つ。
第一に、今の日本だからこそ、カラッと明るいキャラが求められること。首相と官房長官という官邸トップの2人ともが湿っぽいと、政府全体まで湿っぽい感じになってしまう。それでは、コロナを抑えつけるのと経済の再興を同時に進めねばならない今の日本の先導者としては、不適切の感をまぬがれない。なぜなら、すでに相当に湿っぽくなっている国民感情を、ますます湿っぽくしてしまう危険があるからです。
理由の第二は、世に言う失言の多い人、であること。
日本ではすぐに大騒ぎになる「失言」だが、その8割は失言ではない。2割は問題視されても当然なのは、無知と感受性の欠如と言葉の選択の誤りにあるからだ。ところが日本では、8割も2割も一緒くたにして問題にし、新聞からワイドショーまでが大騒ぎする。
しかし、大騒ぎを放置するのも許されない。国民の政治不信をかき立てることになるからで、ここはやはり、そうならないための対策は立てる必要がある。
と言って、対策は一つしかない。失言を問題視するのを商売にしている報道側にも、また深くも考えずにそれに同調しがちな国民の側にも、失言なるものへの免疫力をつけさせてしまうこと、にしかないのである。
官房長官には日に2度、記者会見を行う義務があるとのことだが、その場が、「免疫力強化」には格好のリングになるだろう。具体的に言えば、いちいち問題視するのが追いつかなくなるほど機関銃のように失言を連続発射することによって、である。
それをくり返しているうちに、報道側は問題視するのが追いつかなくなる。また、その一部始終を眼にしている国民のほうも“失言”に慣れてくる。慣れてくれば自然に、8割と2割のちがいの判断もつくようになるだろう。
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source : 文藝春秋 2020年11月号