日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★地銀再編の2人のキーマン
「地方の銀行は多すぎる。再編も一つの選択肢になる」
自民党総裁選で菅義偉氏は、かねてからの持論を口にし、金融業界を騒がせている。
この発言には、「SBIホールディングスの北尾吉孝社長CEOの影がちらつく」(メガバンク幹部)との声が多い。北尾氏はインターネット証券を傘下に持ち、かねてから「広域地銀連合」構想を温めてきたからだ。
北尾社長と菅首相の蜜月ぶりは業界でつとに有名だ。昨年7月の参院選期間中に、菅氏はSBIグループ創業20周年の記念式典の会場に姿を見せ、周囲を驚かせた。
そのSBIは現在、島根銀行(鈴木良夫頭取)、福島銀行(加藤容啓社長)、筑邦銀行(福岡県、佐藤清一郎頭取)、清水銀行(静岡県、岩山靖宏頭取)の4行に出資している。
9月3日、北尾氏は「菅氏から地銀連合構想の取組みを要請された」とまで語った。
さらに「最強長官」の異名をとった森信親元金融庁長官の政権入りも囁かれる。長官時代の17年、森氏は、ふくおかフィナンシャルグループ(FG、柴戸隆成会長兼社長)と十八銀行(長崎県、森拓二郎頭取)の統合を巡り公正取引委員会と対立した。ふくおかFG傘下の親和銀行(同、吉澤俊介頭取)と十八銀が合併すれば、長崎県内の預金シェアが7割を超えて独占禁止法に抵触するとし、公取委は統合を認めなかった。
そこで森長官が菅官房長官(当時)の元へ駆け込み、成立したのが合併特例法だ。同法のモデルケースとなる十八銀行と親和銀行は今年10月1日に合併し、十八親和銀行として新たなスタートを切り、初代頭取には十八銀の森拓二郎氏が就く。
合併特例法は11月27日に施行される。十八銀と親和銀の合併のためだけなら、独禁法の特例規定で済む話。わざわざ10年間の時限立法としたのは、この間に地銀再編をやり切るという意思表示ではないかと見る向きは多い。
ここにきて青森銀行(成田晋頭取)とみちのく銀行(藤澤貴之頭取)の経営統合構想が浮上するなど、地銀再編が風雲急を告げている。
★苦境のQRコード事業
「ドコモ口座」を発端とする不正出金被害が底なし沼の様相だ。資金決済サービスを巡る競争激化の陰で安全性がなおざりにされていたことが露呈した。携帯キャリアの雄、NTTドコモ(吉澤和弘社長)にあるまじき失態である。
市場拡大が期待され百花繚乱の資金決済サービスだが、じつのところ、足下の業績は軒並みボロボロだ。とりわけ惨憺たる情況なのがQRコード(2次元バーコード)決済事業に取り組む各社である。
競争激化の火付け役となったのはソフトバンクグループ(SBG、孫正義会長兼社長)傘下の子会社PayPayだった。大規模な還元キャンペーンを展開したが、顧客の裾野は広がっていない。同社の今年3月期は営業収益92億円に対しじつに800億円を超す巨額の最終赤字。設立来の赤字額は合計で約1200億円にも上る。
メッセージアプリ大手のLINE(出澤剛社長)も似たようなもの。子会社LINE Payの直近期は208億円の最終赤字。LINEはSBG傘下で「ヤフー」を展開するZホールディングス(川邊健太郎社長)と経営統合を控える。PayPayと協調することになるが、劇的な収益改善は望みにくい。
ネットビジネスの総合商社化を目指す楽天(三木谷浩史会長兼社長)傘下の楽天ペイメントも直近期は約40億円の赤字だ。中古品売買サイト運営のメルカリ(山田進太郞社長)も苦戦中。子会社メルペイの昨年6月期は約90億円の最終赤字。赤字基調は続いているとみられ、今年6月には152億円の減資に追い込まれている。メルペイは同業のベンチャーOrigamiを2月に子会社化した。が、同社は直近期、70億円もの累積赤字を抱え、裏目に出る可能性もある。
加盟店の導入コストが安いQRコード決済はもともと中国で爆発的に拡大したもの。それを見てアリババに出資するなど何かと中国と縁が深いSBGが日本での展開を目論んだ。が、中国と違い日本はクレジットカードの普及率が格段に高い。また「Suica」など交通系ICカードも大都市圏では大抵の人が持っている。QRコード決済はやがて廃れ、各社全滅に終わるかもしれない。
★日立「撤退」の裏事情
日立製作所(東原敏昭社長)が英国での原子力発電所新設計画から撤退する。英中部に2基の原発を建設し、2020年代前半にも運転開始をする予定だったが、19年1月に計画凍結を発表している。それから1年半余り経って、凍結が撤退に変わった。
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source : 文藝春秋 2020年11月号