「尖閣奪取」中国に王手をかけられた

山田 吉彦 東海大学海洋学部教授
ニュース 社会 中国
公然と領海侵犯を続ける中国。日本人の倫理観や国際常識は彼らには通用しない

<この記事のポイント>

●今年になって活発化した中国の尖閣諸島への侵入は、水面下で着々と準備されていた
●中国は2010年以降、「サラミ戦術」を重ね、「尖閣は中国の施政下」という既成事実を作ろうとしてきた
●日本人の性善説に基づく倫理観も尖閣問題を邪魔している要因の一つ。中国には国際法も国際常識も通用しない。毅然とした対応を
【顔写真】山田吉彦
 
山田氏

中国の挑発がエスカレート

 尖閣諸島周辺での中国の動きが活発化しています。今年4月14日に尖閣諸島周辺の接続水域に中国当局の船が侵入。そこから8月2日まで、111日連続で、尖閣諸島周辺の接続水域内で中国公船が確認されました。これは2012年の尖閣諸島の国有化以来、最長の連続日数となります。

 1回の領海侵犯で滞留する時間も、どんどん長くなってきています。10月11日には、中国海警局の警備船2隻が尖閣諸島周辺の日本領海内に侵入しました。この警備船は海上保安庁の退去要請を無視し続けた結果、57時間39分にわたって領海内に滞在。さらに今年5月には、中国の軍艦並みの警備船が日本の漁船を追いかけ回すという事件も起こっています。

 尖閣諸島とは、石垣島の北に位置する、魚釣島、久場島、大正島など東シナ海上の8つの小島の総称です。第2次世界大戦後、尖閣諸島は沖縄とともにアメリカに占領され、統治されましたが、1972年、沖縄返還協定にもとづき日本に返還されてからは、沖縄県石垣市の行政区に属しています。

 その領有権が問題になりはじめたのは1968年、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)が東シナ海海底の資源埋蔵状況の調査をおこない、尖閣諸島周辺の海底には埋蔵量豊富な油田が存在する可能性が高いと発表してからです。この発表後、中国や台湾が海底資源の確保を目指し、尖閣諸島の領有権を主張し始めました。そして近年、急激な経済成長とともに海洋進出を目指す中国が、尖閣周辺での挑発を急激にエスカレートさせているのです。

 私は海洋学者としてこの問題に携わり、現地に通ってフィールドワークを続けてきました。今、尖閣の海で何が起きているのか。中国の直近の動きを踏まえ、日本がとるべき対策などをお話ししたいと思います。

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尖閣諸島

コロナと米大統領選で攻勢強化

 中国の尖閣諸島への侵入は、今年4月から突然活発になったように見えます。ですが実は、水面下で着々と準備を続けてきていたのです。

 2013年、中国政府は海上警備を任務に持つ5機関のうち、国家海洋局の海域管理機関「海監」、農業部の漁業取締機関「漁政」、公安部の警備機関「海警」、出入域管理機関「海関」の4機関を統合し、国家海洋局の下に「中国海警局」を創設しました。2018年には、中国海警局を中国共産党中央軍事委員会の傘下に入れ、通称は中国海警局のままで「人民武装警察部隊海警総隊」としました。純粋な警察機関から軍事組織に組み入れられたことで、有事の際には人民解放軍と一体となる、強靱な組織となりました。

 組織の再構築をおこなった後、中国政府は軍から海警局へ、装備や人員の移管を進めてきました。そして今年になり、日本に攻勢をかける態勢が整ったのです。加えて、コロナ禍で米軍の動きが鈍っていたというのも、一つの要因でしょう。

 今夏、尖閣は非常に大きな危機に直面していました。東シナ海における漁の解禁日である8月16日を目指して、中国政府が尖閣周辺に大漁船団を送り込む準備を進めているという情報が入ってきていたのです。中国にとって漁船団は海洋侵略の尖兵であり、彼らは海上民兵とも呼ばれます。待機している漁船の総数は1万隻近くと見られていました。これほどの数の漁船が尖閣周辺に押し寄せれば、大混乱に陥ります。

 ただ、ここで日本側は、中国の動きを抑え込むことに成功しました。防衛省と外務省が一体となって、アメリカに対して徹底的にアプローチをしたのです。その結果として実現したのが、8月15日から18日まで沖縄周辺でおこなわれた「日米共同訓練」でした。表向きは「特定の国を対象とした訓練ではない」としていましたが、中国の動きを牽制するには十分すぎる規模でした。

 加えて、安倍晋三前首相の突然の辞任というハプニングがありました。9月16日に菅義偉新政権が発足し、新任の防衛大臣は政界有数の「台湾通」で知られる岸信夫氏。外務大臣には安倍外交を踏襲する茂木敏充氏が再任、外務副大臣には航空自衛隊出身の宇都隆史氏が就任しました。中国としても「新政権はこれからどういう対応をとってくるのか」と未知数な部分が多く、様子見をする必要があった。そのため引き続き、尖閣諸島への進出を一時的に見合わせていたのです。

 しかしながら、日本の外交路線に変化がないことが見えてきた。アメリカの大統領選を見ても、トランプ政権が盤石ではないことが分かってきました。中国は、今が再攻勢のチャンスだと捉えたのでしょう。8月16日からの1カ月半の遅れを取り戻すため、10月から再び一気に攻勢をかけてきたというのが、これまでの流れとなっています。

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茂木外務大臣

追い詰められる海上保安庁

 中国は尖閣での攻勢において、物量作戦に入りました。船も人員も数で圧倒的に劣っている日本の海上保安庁は、ギリギリのところで踏ん張っている状態です。

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source : 文藝春秋 2020年12月号

genre : ニュース 社会 中国