華為“スパイウェア”戦争

新世界地政学 第90回

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 トランプ米大統領は「オレは関税男だ(I am a tariff man.)」と得意気にツイートし、中国に市場開放と貿易黒字削減を呑ませるため、関税引き上げカードを振り回している。

 しかし、米中のもっとも熾烈な地経学的戦いは関税ではなく、AI、ビッグデータ、量子コンピューティング、顔認証などのデジタル覇権をめぐる闘争である。

 それを劇的に示したのが、2018年12月1日、カナダ検察当局が米政府の要請でメキシコへの乗り継ぎのためバンクーバー空港に降り立った孟晩舟華為技術(ファーウェイ)副会長兼最高財務責任者(CFO)を逮捕したことだった。彼女は華為の創業者である任正非CEOの娘。中国が誇る同国最大のグローバル企業のプリンセスである。

 その日はブエノスアイレスでトランプ大統領と習近平中国国家主席の首脳会談が行われていた。ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、彼の元には司法当局から逮捕の情報が事前に入っていたが、大統領は知らなかったと述べている。

 カナダの検察当局によると、孟氏は、香港にある華為のダミー会社を通じて、イランとの金融取引を主導した。米国の複数の金融機関にはその会社が別会社であるように虚偽の書類を提出し、銀行を欺き、米国の制裁の網を逃れようとしたという。

 しかし、真のねらいは、華為が米国に与える安全保障上の脅威への対抗措置である。米国はここ10年以上、同社の製品にはバックドアが埋め込まれ、いざというときは情報窃取、破壊、情報システムの停止などが仕掛けられているのではないかとの疑念を募らせてきた(華為はそれを否定している)。また今後、第5世代(5G)移動通信システムが導入されると、この分野で競争力のある華為が世界を制覇するのではないかと警戒している。

 華為については、2005年、米国のシンクタンク、ランドが報告書の中で「華為は、中国軍部と深い関係を維持している。華為にとって軍は多面的な役割を果たす重要な顧客であるとともに、華為の政治的な後ろ盾であり、研究開発のパートナーでもある」と指摘。その上で、中国の企業、軍、国家研究機関の“デジタル三角形”が米国と同盟国のネットワークの奥深く侵入していると注意を喚起した。

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source : 文藝春秋 2019年2月号

genre : ビジネス 政治 中国 企業