19世紀半ば、米国からやってきた黒船が、2世紀以上続いた鎖国を終わらせ、明治維新をもたらした。それは日本に国家存亡の脅威を与えたが、日本を改革と開放へと突き動かした。黒船は、世界から先端的な文物を学び、自己革新をしなければ国家としての成長と独立を維持できないことを日本に覚悟させた、究極のガイアツだった。
21世紀、再び、黒船が日本に押し寄せつつある。それも今度はアジアからである。
先端的な製品とサービス、新たな需要の発掘、第4次産業革命の社会実装の先取り的取り組み、SNS人口とデータの相乗効果、そしてハングリーな起業家たち。それらが共鳴して、アジアにイノベーションが生まれ、蛙飛び(リープフログ)で日本を追い越しつつある。
その象徴的な例が、モバイル・ペイメントとバイク・シェアリングに駆動される中国の巨大プラットフォームと中国式イノベーションである。
2017年末時点で、中国の7億5300万人のスマートフォン利用者のうち65%までがアリペイとウィーチャットのモバイル・ペイメントを使っていた。この年、中国のモバイル・ペイメントの取引額は、17兆ドルを超えた。これは、中国のGDPより大きい。一方、バイク・シェアは2015年から爆発的な伸びを見せた。これもモバイル・ペイメントのサービスが生まれてこそ成り立つビジネスだが、リアル・ワールドのビジネスと結びついている。
バイドゥ、アリババ、テンセントなどのプラットフォーム企業の最大の武器は、各方面から吸い込む膨大なデータである。データ集めの末端は、スマートフォンにとどまらず、店舗、スマートスピーカー、自動車などどんどん多様化している。AI、ドローン、ロボット、自動走行などの技術革新を社会実装する際のスピードの速さと人材の流動性、それを支えるシンセンのようなエコシステム(産業生態系)の発展、そして、EVや自動運転など後発を先発に逆転させる蛙飛び戦略を追求する国家意思がここには存在する。
もう1つ、インドの黒船も輪郭を見せ始めた。その一例がバイオである。インドはすでにれっきとしたIT大国だが、バイオ大国としても伸びつつある。バンガロールにあるバイオテックプラットフォームであるCentre for Cellular and Molecular Platforms(C-CAMP)は、これまで500社以上のスタートアップ企業を支援してきた。
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source : 文藝春秋 2019年3月号