急カーブで一気に追い抜け

新世界地政学 第89回

ライフ 社会 中国

 中国の戦略産業育成政策である「中国製造2025」は、2030年までに中国がAIの世界イノベーションセンターになることを国家目標に掲げている。AIのほか、バイオテクノロジー、5G、ロボットなども米国を追い抜き、世界の最前列に立とうとしている。ただ、マイケル・ペンス米副大統領は「中国は官民挙げて米国の知的財産を獲得し、世界の先端産業の90%の支配を目論んでいる」とこのほど行った演説で中国を批判している。

 もう1つ、中国はこうした戦略技術部門で先を行く「米国企業を買収し、先端的な武器の設計図などの技術を盗む」(ペンス演説)ことで、「軍民融合」政策を進めている。これらの民生技術を軍事技術に「融合」させ軍事力を飛躍的に強めようとしている。AI軍事革命の当面の最重要課題は、AIと無人機システム(無人飛行機、無人潜水艦など)を組み合わせ、米空母の行動を制約することである。

 オーストラリア戦略政策研究所は「中国人民解放軍は過去10年で約2500人の科学者と技術者――その中心はAI専門家――を西側の大学に身分を隠したまま留学させてきた」との調査結果を発表した。ペンタゴンはAIを初めとする「かく乱技術」スタートアップに投資するためシリコンバレーに防衛イノベーション・ユニット(DIU)を設置したが、有望企業の多くはすでに中国が投資していた。

 米国を追い抜く中国の“蛙飛び”戦術は人民解放軍高官が言うところの「彎道超車」である。前を行く車を追い抜くには、急カーブで一気に加速してアウトドライブするに限る。清華大学や百度などがこうした「軍民融合」のレーサー役を務めている。

 中国の政治体制の下では、官も民もない。アリババもテンセントも社内に共産党の細胞をつくることを受け容れざるを得ない。

 競争政策も本質は、中国企業を保護するための外国企業排除にほかならない。党・政府は社会監視と政治コントロールの強化のためには、アリババや百度などが集積するビッグ・データを差し出させ、政府の保有する個人データをこれらの企業に供与する。

 ペンスは先の演説で、こうした中国の「政府一丸」(a whole of government)の取り組みに対して、米国もまた「政府一丸」で臨むべきだと述べた。ペンスは、ここで中国への関与よりむしろ中国との競争を米国は覚悟すべきだと訴えている。

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source : 文藝春秋 2019年1月号

genre : ライフ 社会 中国