属性を理由に攻撃するヘイトスピーチは言葉の暴力では終わらない。著書に『ルポ沖縄 国家の暴力―現場記者が見た『高江165日』の真実』がある阿部岳さんが論考する。
【選んだニュース】「中国人を襲え」SNSで拡散…アジア人の暴行事件や差別相次ぐ コロナ第2波のフランス(11月30日、東京新聞 TOKYO Web/筆者=谷悠己)
阿部岳さん
日本というのは中国大陸の一地方のことだ、と思っているアメリカ人何人かに現地で会ったことがある。一瞬絶句するわけだが、向こうの市民感覚から見ればそんなものかもしれない。関心のなさを肌で感じる。日本と中国の違いはよく分からないし、まして外見の見分けなどつかない。
新型コロナウイルス感染がアメリカで拡大していた昨年4月段階で、ダルビッシュ有さんはYouTubeに動画を上げ、「アジア人へのヘイト、差別がすごく増えている」と懸念していた。トランプ大統領が「中国ウイルス」と呼んで差別を助長したことに触れ、「この先、怖い部分でもある」と語った。
感染がヨーロッパで最も深刻なフランスでは「道で出会った全ての中国人を襲え」「13区(パリのチャイナタウン)で中国人狩りだ」というSNS投稿が拡散している、と東京新聞が伝えた。昨年10月末、マクロン大統領がロックダウンを発表した直後のこと。公園で卓球をしていたアジア系男性が襲われ、別の男性は「感染の責任を取れ」と叫ぶ男に暴行された。
投稿の中には日本文化である漫画を槍玉に挙げて「ボイコットしよう」というものがあった。他のアジア人と一緒に日本人も中国人と混同され、標的にされている。現地の日本大使館は在留邦人に一斉メールを送って注意を促したが、いつ被害に遭ってもおかしくない。
日本人は世界ではマイノリティーであり、差別されてきた有色人種である、という厳然たる事実に気づかされる。私やあなたも。「武漢ウイルス」という差別用語を使った麻生太郎副総理も、街角やネット上のヘイトスピーチで中国人排斥をあおる差別主義者も。みんな、国外に出ればいつ被害に遭ってもおかしくない。
那覇市役所前の街頭では、中国人観光客に付きまとって「ここはな、お前の汚い中国じゃないぞ。腐った中国、さっさと帰れ!」と怒鳴り上げるような醜悪なヘイト街宣が続いてきた。コロナ拡大への不安が広がった昨年の春先からは、「中国人は歩く生物化学兵器だ」などと言い始めた。
フランスの事件でも明らかなように、属性を理由に攻撃するヘイトスピーチは言葉の暴力では終わらない。標的への物理的暴力を許す空気を蔓延させ、実行のハードルを下げる。社会の不安が高まっている時はなおさらだ。
危険すぎる。私は批判する記事を書いた。それを読んだ市民が、街宣定例日の毎週水曜、那覇市役所前に先回りして座り込む抗議のカウンター行動を始めた。昨年5月以来、ずっと街宣を阻止している。
毎週、ガジュマルの木陰に数十人が集まり、なごやかに語らう。市民の行動力はすごい。ただ、阻止できるようになるまで5年以上、公然たる差別が野放しになってきたことも事実だ。新聞記者の私はやり過ごしてきてしまった。放置してきた行政の責任も大きい。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2021年2月号