1月12日、作家の半藤一利さんが他界した。享年90。今日の昭和史研究に大きな影響を与えた半藤さんだが、「直接会ったことで感化された」と語る一人が、近現代史研究者の辻田真佐憲さんである。アカデミズムではない、ジャーナリズムの歴史家としての半藤さんの功績とは――。辻田さんが振り返る。
「それが、直に会うとまったく反省してないんだよ。部署が違うとか言って。官僚なんだな」。とある陸軍軍人の、悔恨に満ちた回想録について訊ねると、半藤一利は江戸っ子らしい歯切れのよさですぐそう応じた。同席した保阪正康も直ちに同意し、話を繋いだ。「何回会いました?」「4回」。2018年、『文藝春秋』の企画で鼎談したときのことである。
そのあともオフレコで繰り出される、昭和史を彩る大物たちの知られざるエピソードの数々に、目がくらむ思いだった。「あの人ならよく会社に来たな。ちょうどその席に座っていたよ」。
資料的根拠がない。いわゆる実証主義者ならそう切って捨てるかもしれない。だが、その語り口には、かかる批判を虚しくする、なにか独特の魅力があった。膨大な取材と、自由な想像力が織りなす、昭和史の世界。それは、上皇から宮崎駿まで、あらゆるひとを引きつける、半藤本の魅力そのものだった。
半藤の歴史への関わり方は、俯瞰的に見れば、ジャーナリズムのそれと捉えられる。商業媒体を拠点とするジャーナリズムは、研究機関を拠点とするアカデミズムと並走することで、これまでさまざまな資料を発掘し、歴史的な事実の解明に努めてきた(有名な『昭和天皇独白録』などはその重要な成果のひとつだ)。それだけではない。前者はまた、穏当な歴史観の普及にも一役買ってきた。
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