照ノ富士(モンゴル・ウランバートル出身、伊勢ヶ濱部屋、29歳)
「大横綱でも味わったことのない楽しさを味わっているのかも。相撲人生を2回楽しんでいるというか――。新十両になった時とか、番付が上がっていく時って、みんなうれしくて心に残っていると思うんです。それを自分は2回楽しんでいる」
これは2019年末の言葉だ。序二段まで陥落した元大関照ノ富士が、幕下優勝を果たして十両復帰を確実にした。喜びを内に秘め、「目標はまだ先にある」と、さらに表情を引き締めていたものだ。
入門から5年目、15年の五月場所で幕内初優勝を果たし、晴れて大関に昇進。横綱をつかみ取る日を夢見ていた大器は、両膝にケガを負いながらも約2年間、大関を張り続けた。しかし、病魔が192センチの巨体をむしばんでゆく。「体のことをまるで考えていなかった」暴飲暴食もたたり、糖尿病や肝炎、腎臓結石を患い、休場が続く。あれよあれよという間に番付は急降下し、衰えた筋肉とむくんだ顔に往年の勇姿の面影はなかった。しかし、浴びるほどに飲んでいた酒を断ち、ひたすら治療とトレーニングに勤しみ、雌伏の時を送っていたのだった。
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source : 文藝春秋 2021年4月号