著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、萩原健太さん(音楽評論家)です。
父は判事だった。裁判官。「じゃ、お父さん、厳しかった?」とよく訊かれる。確かに。厳格というほどではないが、何事にも理詰めに、真面目に接する男ではあったけれど。ぼくたち家族に対しては、柔軟なユーモア感覚も持ち合わせた、話のわかるやさしい父親だった。好奇心も探究心も旺盛で、よく自室にこもっては様々な分野の興味深い事柄について勉強していた。ずいぶんと叱られもしたが、多くを教わりもした。グレアム・グリーンのこと、司馬遼太郎のこと、黒澤明のこと、長嶋茂雄のこと……。
ただ、重要な判決の時期が迫ると父の周りに少し近寄りがたい空気が流れた。ぼくが学生だった70年代半ば、父は千葉大チフス事件や成田闘争関連の公判などを担当。そんな時は自宅にも少なからず緊張感が漂った。子供心にもわかった。父に声をかけづらかった。そんな事情もあって、もしかしたら父とのスキンシップは普通の家庭より少なめだったかも。そう思い込んでいた。キャッチボールや肩車の記憶もなくはないが、あまりベタベタ甘えたことはなかったような。父と息子なんてそんなもの? 手をつないでもらったこととかあったっけ?
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2021年4月号