ただただ申し訳ない

オヤジとおふくろ

ニュース 社会
著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、釈徹宗さん(僧侶)です。

 私の母は平成30年の12月に今生の息を引き取りました。満81歳でした。60歳を過ぎたあたりから、次第に自らの死への準備を始めていましたね。当時はまだ終活などという言葉もありませんでしたが、自身の身仕舞いについてはよく考えていたようです。母が往生した日、久しぶりに母の部屋へ入ると、実にきちんと整理されており、納棺装束や遺影も準備されていました。

 母が息を引き取る前夜のことです。肺の機能が落ちて入院していた母は、通常の呼吸も苦しい状況で病院のベッドの上に横たわっていました。家族や親類や友人が交替で付き添っていたのですが、たまたまその時は私ひとりがベッドサイドにいました。

 大学の勤務の帰りに病室へ立ち寄ったものですから、私はどうも小腹がすいていたようです。お見舞いにもらったお菓子などを食べていたら、母が起き上がってベッドの横にある戸棚を開けようとしたのです。そして、息も絶え絶えの中、戸棚の中に果物があるからそれを食べろと言いました。

 驚きましたね。そもそも「私がお菓子を食べているのによく気がついたな」と思いました。もう、眼は閉じたままでしたし、身体も思い通り動きにくい状況だったのですから。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2021年4月号

genre : ニュース 社会