国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【う】「うんぬんかんぬん」 発生源は思ったより古い
「『電車が遅れまして』うんぬんかんぬんの言い訳を彼は続けた」などと言うことがあります。この「うんぬんかんぬん」を、あなたは使うでしょうか。最初に聞いたのはいつか、覚えていますか。
私は高校時代、1985年に友人が使っていたので知りました。「云々(うんぬん)」は分かるけど、「かんぬん」って何だ。そんなことばはないはずだ!
解説すると、「かんぬん」はリズムを合わせるために加えた要素です。「うんともすんとも」の「すんとも」、「仲良し小良し」の「小良し」のように、大して意味のない要素を後に続けて使うことは、よく見られる現象です。
「うんぬんかんぬん」の発生時期について、私は、80年代と考えて大きなズレはないと述べたことがあります(『小説の言葉尻をとらえてみた』光文社新書)。私がその頃知ったからではなく、実例の増え方から判断したのです。
たとえば、国会会議録では「云々かんぬん」の表記が80年代は4件、90年代は76件、2000年代は291件出てきます。それ以前の例はありません。
ところが、『三省堂国語辞典』の編集作業の中で、他の委員から「『うんぬんかんぬん』は1974年の例がありますよ」という指摘をもらいました。なんてこった。80年代発生説があっさり覆されました。本にも書いたのに……。その例は雑誌『現代の眼』74年10月号の記事でした。対談の中で〈子殺し化に向かってる云々かんぬんと論ずる男は〉と使われています。
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source : 文藝春秋 2021年6月号