IOC貴族に日本は搾取されている

サリー・ジェンキンス ワシントン・ポスト紙コラムニスト
ニュース 国際
医療コストはIOCに請求していい(取材・構成=飯塚真紀子)

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▶IOCは東京だけではなく、ロンドンやリオ・デジャネイロでもやりたい放題。開催都市にオリンピックにかかる莫大なコストのほとんどすべてを負担させる一方、オリンピックから得られる利益の大半をむさぼっている
▶開催するか否かは、あくまでも日本の人々がすべき判断。バッハ氏も含め、アウトサイダーは日本の判断を尊重しなければならない
▶IOCは、開催都市を探すのに苦労している。世界の様々な都市を訪ねては、開催都市になって欲しいと頭を下げていますが、つまずいてばかりだ
ジェンキンス氏
 
ジェンキンス氏

IOCは現代の王侯貴族

「ぼったくり男爵」という、私がワシントン・ポストでバッハ会長について表現した言葉が日本で流布しているということですが、この言葉は単なるジョークで使った言葉ではないのです。

 私は、5月5日付のワシントン・ポストのコラム「日本は損切りして、略奪するつもりならよそでやれとIOCに言うべきだ」で、開催都市とIOC(国際オリンピック委員会)の関係性をこう書きました。

〈ぼったくり男爵、トーマス・バッハ会長とそのお供たちには、開催都市を破滅させるという悪癖がある。まるで王侯貴族が旅行先の地方で小麦の束を食べ尽くし、切り株だけ残していくかのようだ〉

 彼らは東京だけではなく、ロンドンやリオ・デジャネイロでもやりたい放題でした。開催都市にオリンピックにかかる莫大なコストのほとんどすべてを負担させる一方、オリンピックから得られる利益の大半をむさぼっているのです。

 このコストをさらに膨らませるコストもあります。それは「ぼったくり男爵」やそのお供たちをおもてなしするためのコストです。

 日本のメディアによると、IOCの幹部たちは5つ星ホテルに宿泊することになるそうです。その中の一つ、「The Okura Tokyo」には一泊300万円という日本で最も高いスイートルームがあるということですが、開催都市契約で彼らにチャージされるのは一泊最大400ドル。差額は東京五輪組織委員会が負担するというのです。

 これまでも彼らは、オリンピックを開催した都市で最高級ホテルに宿泊し、差額は開催都市に負担させてきました。IOCの役員たちは、オリンピックの開催都市で非常にいい目を見ています。文字通り、現代の王侯貴族なのです。

ワシントンポスト
 
「ぼったくり男爵」の記事

IOCにも弱みがある

 ジェンキンス氏は、これまで12冊の書籍を執筆し、AP通信により、トップスポーツコラムニストに4度選ばれるなど、数々の賞も受賞したスポーツジャーナリズム界の重鎮的存在だ。

 東京五輪を中止した場合、莫大な賠償金が生じるのではないか、そんな問題も懸念されているようですが、もし、中止にしたとして彼らは東京を訴えることができるでしょうか? 国際警察や軍隊を日本に送り込んで開催を強制するでしょうか? そんなことが起きるはずがありません。もし、そんなことをすれば、IOCの評判はガタ落ちです。今後、開催都市を探すのにいっそう苦労することになるのは目に見えていますから、そんなことをするはずがないのです。

 最終的な開催中止を決められるのはIOCだけだという指摘もありますが、私はそうは思いません。新型コロナウイルスの感染が拡大する、この緊迫した状況の中で、日本が五輪は実行不可能だと判断したとして、IOCはそれに対していったい何が言えるでしょう? バッハ氏や調整委員長のコーツ氏は日本の最高権力者ではないのですから。

 それなのに、彼らは自分たちに決定権があると主張し、開催しなければならないと訴えています。彼らは日本の空気が読めていないのです。

 開催するか否かは、あくまでも日本の人々がすべき判断です。バッハ氏も含め、アウトサイダーは日本の判断を尊重しなければなりません。

 では、バッハ氏やコーツ氏はどうすべきなのか? 彼らは本来、日本政府や組織委員会にこういうべきなのです。

「日本は今、新型コロナウイルスの感染が拡大し、危機的な状況にありますが、我々IOCに何ができますか? 日本が五輪を中止したいことは理解できます。中止するにしても延期するにしても、一緒に解決法を模索して行きましょう。日本を助けさせて下さい」

 それなのに、彼らには、日本を助けようという姿勢が微塵も感じられません。それどころか、日本に命令し、日本に重荷を背負わせようとする高圧的な態度を取っています。

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 バッハ会長(左)とコーツ委員長(右)

東京は「初心者」とナメられた

 彼らが論理的におかしな姿勢を取るのは、よく知られているように、彼らの莫大な利益が絡んでいるからです。IOCの利益の9割以上は米国で五輪放映権を持つNBCなどからの放映権料と各社からのスポンサー料で、この利益を失いたくないのです。また、オリンピックには非論理的ともいえる莫大なコストもかかっています。莫大な利益と莫大なコストがかかっているために、非論理的な判断が生じているのだと思います。

 そもそも、私は、IOCがオリンピックにかかるコストについて、開催都市を騙していることに憤りを覚え、前述のコラムを書きました。

 東京やこれからオリンピックを予定しているロサンゼルスの人々にこのことを理解して欲しかったのです。開催都市が負担するコストは、トンネルや巨大ダムを工事するのにかかるコストをはるかに超えるため、開催後には、莫大な負債が残ることを知っておいて欲しかったのです。

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source : 文藝春秋 2021年7月号

genre : ニュース 国際