若隆景(福島県福島市出身、荒汐部屋、27歳)
約1年半ぶりの地方場所となる7月の名古屋場所。横綱白鵬が進退を賭けて臨み、大関照ノ富士が横綱取りに挑む場所でもある。話題満載の尾張の土俵に新小結として立つのが若隆景だ。
182センチ127キロの体はけして大きくないのだが、均整の取れた筋肉質の体型は、どこか昭和の時代の力士を彷彿とさせる。
祖父は元小結の若葉山で、幕下力士だった父を持つ“大波三兄弟”の3男坊だ。長兄は幕下力士の若隆元、次兄は十両の若元春と、相撲一族の“出世頭”である若隆景は、「祖父の番付に並ぶのがまずは目標だった」という。
東洋大学相撲部卒業後の2017年3月、兄らと同じ荒汐部屋に入門し、19年11月に新入幕すると、1度は幕内の壁に跳ね返されて十両に戻るものの、以来、着実に力を付けて来た。前頭筆頭で迎えた先の五月場所は、大関正代、朝乃山に土を付けて9勝6敗、2場所連続で技能賞を受賞した。下から攻めて前に出る押し相撲を得意とし、相手がまわしを取りにくくなる位置に手をあてがう“おっつけ”の巧さが身上だ。
福島県福島市出身で、東日本大震災当時に高校生だった若隆景は、長兄が入門していた荒汐部屋で“避難生活”を送った経験もある。「年々故郷への思いは強くなっています」との言葉通り、震災からちょうど10年――故郷の人々の期待をその背に受ける。
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source : 文藝春秋 2021年8月号